0人が本棚に入れています
本棚に追加
弟は中学二年生になった。
この年頃の子の多くは思春期や反抗期を迎える。普段から反抗期みたいな弟に本当の反抗期が来てしまったら、最悪の場合殺されてしまうのではないかとさえと思い、怖かった。
ある日弟は、
「買い物付き合え」と私に言った。
弟が私を誘って出かけるなんて今まで一度もなかった。嫌な予感がしたが断ることも出来ないので仕方なくついていった。
近所のデパートに着くと、弟はスタスタと歩き小さな雑貨屋に入った。弟は店に入ると人をかき分け、何かを取り、私に突き出してきた。それは黒地に黄色のイナズマが描かれた頑丈そうなスマホケースだった。値段を見ると、三千円と中学生が買うにしては少し高いものだった。
「これ、買いたい、の?」
私が恐る恐るそう聞くと、
「買え」
弟はその一言だけ言い残し、店を後にしてしまった。
弟にとって私は財布だったようだ。
本当は買いたくなかったけど、このまま買わずにお店を出たら弟に殴られるかもしれないし、仕方なくレジへと向かった。
「ご自分用ですか?プレゼント用ですか?」
店員さんが笑顔で聞いてくる。脅された時用、という選択肢を用意してほしいなと思いつつ、自分のではないので
「プレゼント用で」
と言い青い袋に包んでもらった。袋代がかかるなら、自分のと言えばよかったな。とも思ったが、自分がこういう趣味だと思われるのもなんとなく嫌なので、そのまま袋に包んでもらった。
店を出ると弟が待っていた。
「これ、買ってきたよ」
私がそう言うと弟は袋を無言で奪い取り、無造作に箱を開けすぐにスマホにつけた。子供らしい一面もあるのだと思いつつ、こんなことを言ったらどんな目に会うかわからないので、私は黙っていた。
最初のコメントを投稿しよう!