私の弟は反・反抗期

3/12
前へ
/12ページ
次へ
 次の日、家に帰ると弟がいた。いつもはサッカーの練習で遅いから、この時間にいるのは珍しかった。そういえば、日曜日にあった練習の振替休みだとカレンダーに書いてあった気がする。  私はおやつを食べたかったけど、弟と同じ空間にいると怒られそうだから自分の部屋に行こうとした。すると、弟は私の存在に気づいたらしく、椅子から立ち上がり、私に近づいてきた。何か言われるのかと思っていたが、弟は私の目をじーっと見つめながら  手を振りかざした。  私は一瞬、走馬灯を見たような気がした。  急に怖くなった私は、 「やめて、まだ、死にたくないよ……」  そう言いながら、頭を手で守り、その場に座り込んだ。  震えが止まらなかった。  しばらくしても弟が動かないので、怖くなって弟の顔を見ると、弟は悲しそうな表情をしていた。  それは弟の初めて見る表情だった。  私はこの隙に逃げないと本当に殺される。そんな気がして、震える足を必死に動かし、自分の部屋へ駆け込んだ。  乱れた呼吸を落ち着かせるように深呼吸をした。どこから飛んできたのか、私はスカートの上に乗った綿毛を見つめながら考えた。  私には弟がなぜあんな顔をしたのかわからなかった。しかし、冷静になってから考えてみるとすぐにその答えはわかった。  私は弟を『殺人者』扱いしてしまったのだ。  弟は手を上に挙げただけで、本当は私を殴ろうなんて思ってなかったのかもしれない。なのに、私は弟になんて酷いことを言ってしまったのだと深く反省した。後で必ず謝ろうと思っていたのに、結局その日は声をかける事が出来なかった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加