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ゆるさない
ヒソカくんのお見舞いに行こうと思いましたが、仕事始め独特の忙しさに疲弊したわたくしはアパートに戻ることにしました。
ため息をついて部屋へと入ると、そこにヒソカくんが立っていました。ここはわたくしの部屋なのに何故? 首を傾げると、彼は興奮しているのか早口で捲し立てたのです。
「ね、年末年始はどこも休みで大変だったけど、ふたりで住む部屋を見つけたんだ! ちょっと家賃は高いけど、俺が精一杯稼ぐから!」
彼が何を言っているのか、わたくしにはとんと理解出来ませんでした。
「け、結婚したらシズリには仕事をやめてほしいと思ってるんだけど……それでいいよな?」
にこにこと笑うヒソカくん、どうしてわたくしの名前を知っているのでしょうか? こんなのまるで──。
「ストーカー? 気持ち悪い」
そう告げると彼は能面のような顔になりました。
「ストーカーって……恋人同士なのにその言い方はひどいだろ、」
わたくし達が恋人同士なんて全くの初耳。しかも結婚を考えているだなんて、そんなのまっぴらごめんです!
確かにヒソカくんのことは好きですが、それはあくまで推しとして。恋人や伴侶に選ぶならヒソカくんみたいな弱虫でなく、頼りになる強い男性と決めているのです。
以上のことを伝えると、彼はわたくしが大好きな困り顔で狼狽え始めたのでございます。
「え、だって、お前は俺のことが好きだから優しくしてくれたんだよな? 好きだから苦しんでる俺を助けてくれたんだろ? だから俺も、好きになったのに……俺なんかに優しくしてくれるのはお前が初めてだったから……好きになったのに、」
「助けはしましたが、恋愛感情はありません。警察を呼びますよ?」
きっぱり強めに言うと、きっと彼はもっと困惑するはず。そう思ったのですが、それは間違いでした。
ヒソカくんは怒りでギラついた目でわたくしを睨むと、ダンッと床を踏み鳴らしました。
「ふざけるなふざけるなふざけるな!! 俺はお前が好きなのに、お前が俺を好きじゃないとかありえないだろ! 許さない、ゆるさないゆるさないゆるさない!! こんなに惚れさせたんだ、責任とってこれから先ずっと俺と一緒にいろよ!」
声を荒らげた彼はズカズカと大股でわたくしに近づくと、手にした黒くて四角い機械を向けきたのです。するとビリビリと身体に電流が流れ、わたくしは意識を失いました。
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