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ふたりきり
程なくしてわたくしが目を覚ますと、窓も娯楽もない四角い殺風景な部屋のベッドの上に寝かされておりました。ええ、そうです。今と全く同じように。
手と足に絡みつく冷たい鎖、頑丈そうな首輪を外すことはもうとうに諦めました。
頭がぼんやりしてあまりよく物が考えられないのは食事に怪しげな薬でも混ぜられているからでしょうか? そんなことをしなくてもわたくしはもう抵抗などしないのに。
ガチャガチャと幾重にも施されたロックが外されていく音がします。どうやら彼が帰ってきたようなので昔話はここまでに致しましょう。
「た、ただいま、起きてるか?」
扉が開き、ヒソカくんがベッドの傍らにやって来て弱々しく微笑みます。
彼は愛おしげに、まるで壊れ物にでも触れるかのような優しい手つきでわたくしの頬に触れるのです。
「聞いてくれ、シズリ。今日はいつも無理難題をふっかけてくる先輩に遂に言い返せたんだ。それもこれも愛しいお前が家で待ってくれているおかげだ。俺はお前の為になら頑張れるよ」
わたくしは口を閉ざして、何も発しません。
「……さっきまでは何かブツブツ言ってたみたいなのに。薬が強過ぎるのか? でもお前には早く俺のことを好きになってもらわないと困るしなぁ」
彼が開けっ放しにしている扉から光が差し込んでおり、わたくしはそれをじっと見つめます。
「もしかして外に出たいのか? それは駄目だ。外に出たらどうせお前も俺から離れていくんだろう? そんなの絶対に許さないからな」
ヒソカくんは困ったような、泣き出しそうな、そんな顔でわたくしを見下ろします。
「俺はもうお前がいないと駄目なんだ。そりゃあ俺なんかに好かれたお前も少しは可哀想だけど、恨むなら俺に優しくした自分を恨んでくれ。……なぁ、これからもずっと一緒にいてくれるよな?」
ヒソカくんは狡い人です。そんな魅力的な表情でお願いされたらわたくしは頷くしかないじゃないですか。
《終》
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