運命

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運命

 ヒソカくんは周りの人達の迷惑そうな様子に気がつくと「すみません」と呟き頭を下げていました。  それから電車はまた走り出したのですが、それと同時に“ジリリリリ!”と車内にけたたましい音が鳴り響いたのです。なかなか止まないその音の原因を乗客達はキョロキョロと探しました。そうして全員の視線が集まった先にはヒソカくん。  彼は青い顔で慌ててビジネスリュックを下ろそうとするのですが、満員電車の中では上手くいかず近くの人にリュックをぶつけていました。「痛い」という非難じみた声や「チッ」という鋭い舌打ちを浴びせかけられながらヒソカくんはやっぱり「すみません」と平謝りばかりでした。  音の発信源はどうやらヒソカくんのケータイのようで、今思い返すとそれはアラームの音だったのかもしれませんね。漸くケータイを手にした彼は音を止めることに成功致しました。しかしホッと息をついたのも束の間、ガタンと大きく揺れる車内。その際に彼のポケットから元々落ちかけていたパスケースが床へとポトリ。  ヒソカくんは直ぐにそれに気がつきましたが、パスケースは電車の揺れと人々の足に蹴られて遠ざかっていきます。 「すみません、すみません!」  ヒソカくんはやっぱり謝りながら人々を掻き分けて、そしてわたくしの前にやって来ました。  わたくしの足元には彼のパスケース。ヒソカくんはサッとそれを拾うと、伏し目がちにわたくしを見ることもなく言ったのです。 「す、みません、」  目に涙を溜めて震えた声でそう言った彼は、次の駅に着くと逃げる様に電車を降りていきました。  わたくしは小さくなる彼の背中を見送りながら“運命”を感じて胸を高鳴らせておりました。だってこんなにもわたくしの性的嗜好(フェチ)を刺激した男性はヒソカくんが初めてだったのですから。
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