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接触
ヒソカくんを見守るようになって半年が経ちました。その頃の彼はSNSでよく「誰かに見られている気がする」「ストーカーかもしれない」などと投稿しておりました。
なんて恐ろしい! わたくしが夢中になる位なのだから他にもヒソカくんの熱烈的なファンがいてもおかしくはありません。ですがストーカー行為に及ぶなど、ファンとしてのマナーは最悪。そんな悪質な輩がヒソカくんを害することが万が一にもあってはなりませんので、わたくしは更に“見守り”を強化することに決めました。
わたくしはヒソカくんの無様な姿を眺めることが幸せで、彼に認識されたいなどと望んだことはたったの一度もありませんでした。ですがそれは唐突に訪れたのです。
12月末の忘年会シーズン。ヒソカくんは職場の方々と居酒屋に入って行きました。当然わたくしも同じ店に入り、彼らが貸し切っている個室の隣の部屋で忘年会を終わるのをじっと待っておりました。
2時間程して忘年会はお開きになり、わたくしもヒソカくんを追うようにお店を出ました。お酒が得意ではない彼はフラフラとした足取りながら駅へと真っ直ぐに向かっていたのですが、あと少しのところで狭い横路地へと入って行ったのです。
不思議に思いながらソッと路地を覗きこむと、彼はしゃがみこんで口元を手で覆っていました。そして「うー」と呻きとても苦しそうに見えました。
苦悶するヒソカくんを最初こそうっとりと見つめていたわたくしですが、いつまで経っても苦しんでいる彼に生命の危機を感じてしまいました。推しに死なれたらわたくしはこれから何を糧に生きていけばいいのか、その一心でわたくしは声をかけたのです。
「あの、大丈夫ですか?」
ヒソカくんがこちらを見上げ、その潤んだ瞳に初めてわたくしの姿が映りました。
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