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月明かり、電燈。
夜、花が街の下に咲いていた。
その向かいの廃屋、薄暗くて狭い部屋の中に
蝋燭を灯した男がいた。
彼に名前はまだ無い。
木製の椅子の裏には握り棄てられた小説の原稿達。
孤独感に苛まれるが儘に書き殴っていた。
書いては棄てて、自分の才能の無さに打ちひしがれて、海の奥へ、奥へと溺れてゆく。
そんな生活を繰り返していた。
「__月光」
彼の頭上の窓から月明かりが差し込んでいた。
気を休めようとすると、緊張を解こうとすると、黒い邪悪な孤独感が体を覆ってしまう様だったから、こうして窓の外を見たのは久しかった。
硝子一枚を隔てて社会と隔離されている、西、自らを隔離していることがどうしようもなく、漢然とした不安と恐怖感が横隔膜を捻じった。
嗚呼、こんな自分本位な、肥大した自尊心に酔いしれる日常はいっまで続くのだろうか。
そろそろ酔いが醒めて仕舞いそう、そしてまたあの奇行に走って仕舞いそうだ!
「仕方がないか」
衝動。
愛を温望する衝動。
心の穴を埋めたい衝動、情欲、孤独感。
彼はドアノブを捻じって外に出た。
横隔膜が高揚する体に、あの花を踏み殺した。
あぁ!なんて哀れな花よ!
それは生涯、月明かりを知らないまま彼の幻燈に溺れて消えたのだ!
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