月涼し

1/1
前へ
/17ページ
次へ

月涼し

私、気づいたの。 月の近くの場所に立って、やっと気づいたの。 この街は海底で、 あの月は、この海から出る為の穴だって。 スイアツが私たちを押し潰して、 藍色の空が呼吸を邪魔してる。 月の向こう側の太陽が照らす光だけを頼りに 私たちは金魚鉢で生かされているんだって。 『チュウイケタシタ2.7m』の、あのトンネルだって流れ藻の下。 陽の届かない場所でしかなくて。 その傍の森は全部ケルプフォレストなんだ。 皆、誰もがあの穴に気が付かないのだ。 向こうに跳びたいって、きっと私しか思ってない。 あっちは、どんな世界があるんだろう。 あっちが、ほんとの世界なんだろう。 この世の真実でもあるのかな。 イデア界とやらでもあるのかな。 向こうは、独りなのかな。 私以外は誰も、居ないのかな。 それとも、誰かが待っているのかな。 私が来るのも、待ってくれてるのかな。 海を泳ぎたかった、って書いていれば こうやって空を飛ぶ事も許して貰えたのかな。 あれ、涙が滴ってる。 あの穴、こんな近くにあったんだ。 なんだ、なら必要ないじゃん。 きっと今日も、明日もその先も 私はこうして、地を這って生きていく。 紹介文 この詩は、全て学校帰り、独り夜空の下で思いついた。空に浮かぶ月がふと、太陽のように見えた事から始まる。それが夜空にひとつだけ大きく光っているのが僕には穴にしか見えなかった。そして光る向こう側には何があるのだろうと興味を持った。息のしづらいこの世界に少し嫌味が差しているのだろう。でも、僕らは皆、その水圧によって生かされている。足場の無い自由は不自由なのだ。縛られてるから、頑張れる。苦しいから、息をしようとする。主人公にその思いを重ねる。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加