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朝忠は急いで刀を振り下ろそうとしたが、もう遅かった。九尾の狐の爪が脇腹を切り裂く直前だった。
キンッ
刀と爪がぶつかる音がして、目にも止まらぬ影が目の前を走り抜ける。九尾の狐は腹を切り裂かれ体は二つに分かれ、死んでいた。
近くに刀を手にした女が立っていた。見たことのあるその顔に朝忠は声を上げた。
「お前は姉上を裏切った猫又! 覚悟しろ!」
さっと朝忠は、二本の指を立てた手を振り上げた。
「待ちなさい!」
「その声は姉上! どこですか?」
見ると、猫又が口に這子をくわえていた。這子とは、はっている赤ん坊の姿に作った縫いぐるみの人形のことだ。
「これからは、この姿で朝忠を助ける。安心せよ」言葉に合わせて這子の口も動いている。
「傀儡術ですか?」
「そうじゃ。この手しかなかった。猫又にあらかじめ頼んでおいたのじゃ。私を殺して灰にして、我が術をかけた人形にかけさせた。その人形をこの這子に閉じ込めたので、我はこの人形に生まれ変わったのじゃ。あっ、六根清浄、急急如律令!」
2本の指だけが立ったぬいぐるみの手が器用に刀に見立てて格子を切る。
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