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今宵も西京極大路で騒ぎがあった。
「猫又だぁ、逃げろ」
男の大声が響き渡る。それを追いかけるようにして女の声がした。
「待ってえなぁ」
猫のようなしなやかな動きで人垣をすり抜けていく女性の影に、道行く人々は道を開けた。
猫又は妖術を使う化け物だ。その爪には毒があり、咬まれると死に至る。
「うちを置いていかんといてぇ」
ずいぶんと器量がよく魅力的な女である。しかし誰も追いかけない、声もかけない。その女の尻には尻尾が2本ぶら下がっていたからだ。
この辺りでは見慣れた光景なのだ。
「なんやもう……つまらんわあ」女は不満そうにつぶやくと、猫の姿に戻り、するりと屋根に飛び上がった。そのまま音もなく瓦の上を走りだす。
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