姉弟

3/14

34人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
 今宵も西京極大路(にしきょうごくおおじ)で騒ぎがあった。 「猫又だぁ、逃げろ」  男の大声が響き渡る。それを追いかけるようにして女の声がした。 「待ってえなぁ」  猫のようなしなやかな動きで人垣をすり抜けていく女性の影に、道行く人々は道を開けた。  猫又は妖術を使う化け物だ。その爪には毒があり、咬まれると死に至る。 「うちを置いていかんといてぇ」  ずいぶんと器量がよく魅力的な女である。しかし誰も追いかけない、声もかけない。その女の尻には尻尾が2本ぶら下がっていたからだ。  この辺りでは見慣れた光景なのだ。 「なんやもう……つまらんわあ」女は不満そうにつぶやくと、猫の姿に戻り、するりと屋根に飛び上がった。そのまま音もなく瓦の上を走りだす。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加