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少し離れた屋根の上に狩衣姿の男女がいた。陰陽師・弓削家の姉弟だった。陰陽師の父親が何者かに毒殺され、倫子は弟の朝忠と陰陽師・弓削家当主を争っている。
「見てなさい、朝忠。猫又なんていうのは、こうやって使い魔にすれば後々役に立つから」
姉の倫子は、人差し指と中指だけを伸ばした右手の拳を顔の前に掲げた。
「六根清浄、急急如律令」
続いてその2本の指を刀に見立てて格子を切る。
「臨、兵、闘、者、皆、陣、烈、在、前」
途端に猫又が苦しみ出す。
「猫又、滅するか、我の使い魔となるか?」
「助けてください。なんでもします。お慈悲を」
「よし、お前は今日から我の使い魔じゃ」
猫又は猫の形の紙となり倫子の手の中に収まった。
「姉上、私は使い魔は持ちません。その都度、式神を使います。過去の文献に主を裏切った使い魔がいますゆえ」
「式神は我が死ねば力尽きる。使い魔は我が死んでも我の命令を遂行する。良いものじゃがな」
「自分の死後にまで影響を与えようとは思いませぬ」
倫子は、ふんっと鼻を鳴らして屋根の上を駆け出した。朝忠がそれに続く。しばらくして、自宅の庭へと降りる。
「姉上、あれは土御門の猫」
倫子が塀の上を見ると土御門の気をまとった黒猫が二人を見ていた。黒猫はひょいと庭に降りると二人の前まで近づき、ぽんっと消えた。そこには手紙が落ちている。
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