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そこからはもう、開き直りだ。
とりあえず俺は、腹違いの弟でありお客様である奴を、俺はこの屋敷の使用人で兄として接待と世話をした。
腹違いの弟でお客様は幸いにも素直に従ってくれる、と思っていたところで、予想外に我が儘を告げられた。
「それでは、今日は私の相手を仕事としてください、兄さま」
ただその内容としてはボンボンより、俺の弟の方がまだ可愛げがあると思う。
何よりもこの日だけだからと思ったから、素直に聞いていたのなら、具合が違う、しかもこの屋敷に住むという。
だから、俺は銃を持って家出をする。
「だから、弟君のことに関してはお前も色々複雑な気持ちもわからんでもないが、旦那様から直々に説明があっただろう?進学の下準備の為にこちらで入学をされるまで、お屋敷に住まわれる、それだけのことだ」
結局屋敷を抜け出しきれず、鳩尾を押さえて苦しむ俺に、先輩は使用人の夏の寝巻き姿で俺に宥めるようにそんなことを告げる。
ちなみに俺が苦しんでいる理由は、使用人の住居場から、正しく一歩出たところ、先輩から一蹴りを見事に食らったからだ。
どうやら、昼頃から既に俺が逃げ出す気配を察知し、見張っていたとも告げられる。
「ほら、さっさと戻れ。今なら騒ぎにならなくて済む」
「俺の心は弟と生活すると決まってから、騒ぎまくりですよ……ヴぇ」
俺の呻き声にも構わず、それも知っていると続けられて俺は先輩に問答無用とばかりに躰を担がれた。
「……確りもっておけ」
そう言われて渡されるのは、愛用の猟銃だ。
「そもそも寒いのが苦手な癖に重たい鉄の銃持って、秋から冬になったのならどうするつもりだ」
教会で数年一緒に過ごした先輩は俺の寒がりをすっかり承知していて、そんなことを俺を部屋に連れ戻しながら言う。
「そんな言い方されると傷つくなあ……俺としては、その冷たさが愛おしい大切な夏の内に、離れようと思ったんですよ」
逃げるのをすっかり諦めた俺は、暖か過ぎて不安になったから、改めて自分の強さと誇りの象徴の様な銃を握りしめると、心地よい冷たさに安心する。
「……暑すぎて、逃げたくなる気持ちは少しだけわかるかもな」
先輩が小さく同調してくれた発言の直後に、夏の虫の鳴き声をかき分ける様にボンボン坊ちゃんの珍しい泣き声と、それを慰めつつも、俺を少しばかり不安な声で呼ぶ弟の声に、俺も夏の夜の暑さ以上の何かに、改めて逃げたくなった。
もう、凍えていた夜は思い出せそうにないのはまた別の話だ。
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