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夏で良かった。
荷物も衣服に関しては少なくて住むし、給金もつい先日もらったものを、夜の寒さを凌ぐために使わなくて済む。
ただ、正式に辞める訳じゃなくて夜逃げするわけだから、折角爺さんから「就職祝だ」と譲ってもらった俺専用の火鉢を置いていくことになるのは、正直に言って惜しい。
先輩に頼んでおけばもしかしてとっておいてくれるかもしれないが、絶対に理由を聞かれるし、引き留められるからそれも頼むこともできない。
けれども、母親違いの弟と毎日の様に顔を会わせるとなると、それは俺にとってはしんどいことになる。
「大体話が違う、神父さんよ」
苦虫ってやつが本当に存在をしていたのなら、俺はそいつを噛み潰しているような気持ちでそう呟いて使用人にも関わらず個室を用意をしてくれていた部屋の障子を開いて猫の様に足音なく出ていく。
和洋折衷という屋敷で数少ない畳部屋が俺に回された時には、特に不満もなかったのだが、こうやって抜け出すときは、洋室の開閉する扉よりも音がするから、少しだけそれが不満になる。
屋敷としては最近、地方からーーー俺の父親だという人物と同郷だと言う場所から使用人を殆ど引き連れて越してきて、手入れをしたばかりだから、使用人の部屋と言う割には、上等だ。
それに、住み込みで働く員数が少ないこともあって、手狭ではあるが1人が寝起きをするには十分な部屋を用意をしてもらってもいる。
俺の仕事は庭師とはしていたが、屋敷の場所が賑やかしい町から離れた田舎ではあるため、自然の生き物が彷徨くから、屋敷の住人達を守るために、どちらかと言えば狩猟の腕を買われての、見習い庭師としての就職だった。
まあ、俺を引き取った神父がそういう売り込みでこの屋敷に預けて、俺も教会で騒がしいのと、1人のそれなりに気の合う先輩が先にこの屋敷に就職していたから、最初は悪くはない話だと思ったんだ。
先輩が先に就職して、どうやら巧くいったということで、続いて狩猟の腕があるものが良いというご要望があったので、益々俺に向いているとなる。
で、実際来てみれば屋敷の主人の2人の子どもの内、長男は進学の為に長期の休みにでもなければ帰ってこない、次男坊は年が離れている為に甘やかされてワガママということだが、先輩が巧いこと懐柔してくれていた。
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