兄と弟 1頁

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兄と弟 1頁

市内視察を終え、執務室に帰るとそこにいたのは、俺の実兄・社楓人(やしろふうと)だ。兄は、邂理公国(かいりこうこく)の政府役人。俺よりも忙しい身のはずだが・・・。 「・・・なんでいるんだ」 「やっ!禮萌(あやめ)、おかえり!」 「何しに来た?また、何かやらかしたのか?」 「やらかした前提で、話するのやめようよー。第一、僕は悪いことはなに一つしてないよ」 兄は以前、当時の首相に歯向かい刑務所に入っていた前歴がある。だからこそこの人の言うことは、いまいち信用できないし、するつもりがない。 「あんたの言うことは信用できない」 「相変わらず嫌われてて、お兄ちゃんショックだよ・・・。兄に正面からそんなこと言うって、酷くない?」 (その割には、あまりショックを受けているようには見えない顔だけどな) 「ここに来たのは、久々に弟の顔を見たくなってね。お互い忙しいから、ゆっくり話すこともあまりないでしょ?」 「・・・それだけのためにここに来るのは、あんたくらいだよ」 「あっははー。で?最近どう?」 「どうって・・・。忙しいよ。どっかの政府のせいでな」 「だよねー」 邂理公国は、元々軍事国家として栄え、国内にも軍事施設を多数所有している。また、学生のうちから、軍人になるための基礎を学べる施設もある。国全体が、未来のための人材を育成しているかのようだ。ところがつい先日、政府はその数多ある軍事施設を放棄し、各国に対して如何なる軍事攻撃はしないという決定を下した。今更ながらのこの決定に対し、軍事施設を管理する我々としては、戸惑いを隠せないところではある。 「この決定は、我々軍に対する裏切り行為といって、反発する者もいるくらいだ」 「まあ、突然の決定に賛成できない者たちがいるのはわかってたことだよ。ただ、僕はこの決定に関しては異論はないね」 「なぜだ?あんたは、政府役人としては異例の、軍に協力している人間だろう」 「確かにそうだね。でも、これで、この決定により、"犠牲"となる子供たちの人数は減らせた。僕は満足だよ」 俺たちは、いや、兄たちの世代からは、学生時代からの軍人としての英才教育は、最早必須事項だった。学校の授業全てが、軍人になるための、実際に軍人が受ける訓練のようなもの。もちろん基礎学力も必要なので、座学もありはしたが、大半が血生臭さを感じるものばかりだ。その代償を払ったからこそ今の自分の地位があるわけだが、兄はそんなことは思っていないのだろう。 「満足、か」 「禮萌は、軍人だからそんな風には思えないよね。でも果たして、僕らの学生時代ってのは、これからの僕たちの未来にとっていいものだったのか。僕はずっと、そんなことを思っているんだ」 「すまん。あんたの想いも知らず、軽はずみに嫌味をいって・・・」 「全然、気にしないでいいよ!これは、僕の我が儘なんだから」 この時、初めて兄の想いを知った気がした。普段は、冗談ばかりいって全然真面目なところなんて見たことがなかったが、この時の兄はどこか頼りがいのある兄に見えた。・・・そんな気がした。
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