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実家の夏の夜
私の実家は長野県の佐久市にある。いや、今年売れてしまったのであった。と言うべきところだ。
小さな町だったが、佐久市に合併されたので、町名は取れてしまった。
佐久市○○。と呼ばれるようになって、もう久しい。
実家の近所ではエアコンの入っている家は殆どない。(信じられないことに未だに。である。)
冬は氷点下10度を超えることもあり、エアコンでは追い付かないほど寒いので、ファンヒーターを一家で何台も持っている。
夏はここ最近の温暖化で大分暑くはなったが、日陰で風が来れば許せるくらいには涼しくなる。湿度がとても低いためだ。
しかし、温暖化の影響で実家のあたりでも30度を超える日も出てきた。私が実家に住んでいた中学生の頃に、アトピーですぐに汗疹ができてしまう私の為に、2階の子供部屋と、父が主に過ごしていた仏壇を置いてある部屋にだけエアコンを入れた。
田舎の嫌なところは、遠慮なくよその家の事にも口を出してくることだ。
室外機がつくので、みんなにすぐにわかってしまう。
近所の人や、実家の洋品店に来たお客さんからは
「お店やってるとお金あるわな。」
とか、
「えらい贅沢だに。」
などといろいろ言われたが、母は気が強かったので、何を言われても
「おいんち(あなたのうち)もいれればいいに。お百姓はお金貯めてるに。」
と、涼しい顔をしていた。
しかしながら、農家は昼間は結局農作業で家にいないし、昼寝は家が広いので北口の部屋に行けば十分に涼しいのだ。
とはいえ、エアコンが必要なのは町中でも昼間だけである。
夜は網戸にして、全部の部屋の窓を5cm位開けておくと、朝には閉めないと寒いくらいになっている。
これは最近までも同じで、夜寝るときにはすこーしだけ窓を開けて寝るのが気持ちよい。
そして、窓を開けると聞こえてくるのがカエルの合唱だ。ケロケロとはっきり聞こえるわけではない。
実家の周囲にこそ田んぼはなかったが、歩いて100mほど登ったところには田んぼが広がっている。そちらの方向から
『ケーケーケーケー。ワーワーワーワー。』
と、音にはできないほどのカエルの大合唱が聞こえてくる。どれくらいのカエルが鳴いているのだろうか。夏の夜にはそのカエルの大合唱を子守唄に、眠りにつくのだった。
今はなくなってしまった実家の大切な夏の思い出である。
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