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「ん? だって彼女がそうなったらって考えたら恥ずかしいもクソもないじゃん」
「尚、彼女いたっけ」
「いないけど」
姉ちゃんの顔が聖母の様に優しくなった。
「尚、とにかく食べよう」
「うん」
冷房を効かせた部屋で、鍋を食べるのも良いなと、真向かいでもぐもぐする姉ちゃんを見て思った。
「一人で産んで育てられるかなあ」
「……俺と同居する?」
「尚と?」
「うん」
「いやいや、それはさあ。姉ちゃんとしてはさあ……」
「じゃあ、実家に戻る?」
「……それは無理なのは尚だって分かってるでしょ? 産まない事も考えなきゃなのかな」
今、姉ちゃんの中では究極の選択に迫られているのだ。口の堅いカウンセラーを探さねばならないかもしれない。
「お義兄さんには?」
「言えるわけないじゃない」
「知り合いの弁護士に相談してみようか」
「尚、あんた顔が怖い。でも有難う。分かったらちゃんとする。うん、本当よ?」
姉ちゃんはたらふくご飯を食べて、にかっと笑った。不安な時ほどよく笑うのを俺は知っている。
「姉ちゃん、もっと頼りなよ」
「え? 家にも泊まらせてもらって……十分頼ってるわよ」
「そっか」
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