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2 平穏な1日
いつも同じ夢を見る。
そしていつも同じところで目が覚める。
いつからだろう、俺はずっと……同じ夢を見ている。
* * *
目覚まし時計の凄まじい音で飛び起きた俺は、いつものように身支度を整え階下に降り、父、母、妹と4人揃って朝食を摂る。
我が家にはなにか特別なことでもない限り、“朝・夕は全員揃って食事をする”、という暗黙のルールがあるのだ。
父と妹はもうテーブルについて、配膳を待ちながら慌ただしい朝のひとときを思い思いに過ごしていた。
「おはよう」
『おはよう』
全員一瞬こちらを見て、また思い思いの時間に戻る。
父は厳しい人だ。食事の間はほかのことをしながら――そう、“ながら”は絶対に許さない。やりたいことがあればその前後にしなければ雷がおちる。
そんな父は新聞を広げ、難しそうな顔をしながら熱心に読み込んでいる。いつもと同じ光景。
母は“ザ・天真爛漫”というのを絵に描いたような陽気な性格。いつも前向きな言動は家族に笑顔と勇気、元気を与えてくれる気がする。そんな母は鼻歌まじりに出来上がった料理をテーブルに並べている。これもいつもと同じ。
2歳違いの妹は、まあ兄のオレが言うのもなんだが、とにかく可愛い。兄妹の欲目を差し引いてもクリッとした大きな黒い瞳に肩までのストレートヘア。上目づかいで、子犬のように可愛く甘えた声で頼み事をされたときにゃあ、とてもとても首を横には振れない。そんな妹が今日はいつもと違う。なんだかそわそわしているみたいで落ち着きがない。
「どうしたんだ? そわそわして。そんなに部活行くのが楽しみなのか?」
「やだお兄ちゃん、そわそわなんかしてないよ」
と言いながらもスマホ片手にニヤニヤしている。
「でもかなりにやけてるぞ」
「やだお兄ちゃん、にやけてなんかいないわよ」
そう言いながらも、口もとからは嬉しそうな笑みが溢れだしている。
「ぐふふ」
ぐふふって。
うーん、なにかあるな。
俺もテーブルにつき、並べられた朝食に目をやる。
今日は和食だ。ごはんに納豆、鮭の塩焼きにほうれん草の胡麻和え。それから卵焼きに……。
母が席についたところで食事が始まる。
「いただきまーす」
全員でいたたきますの挨拶をすませ、卵焼きを頬張る。
料理上手な母の卵焼きは絶品だ。
卵焼きといえば塩味を思い浮かべる人も多いかもしれないが、我が家の卵焼きはひと味ちがう。
ボウルにたまごを割り入れ、そこに塩少々、醤油少々、砂糖少々、そして隠し味少々……。
決して甘過ぎず、たまご本来のうま味を引き出した絶妙な味付け。
この母の卵焼きを一度口にしたら、誰しも、もう他の卵焼きでは満足できなくなるほどの逸品だ。
「ごちそうさまでした」
食事の前後の挨拶は必ずしなければならない。そう、感謝を込めて。
お腹もいっぱいになり、鞄に弁当を詰め込んで、高校3年生のオレは、夏休み特別講習に出席すべく家を出た。
途中、親友と親友の彼女ちゃん、そして俺の彼女と合流し4人で登校する。因みに、親友の彼女ちゃんと俺の彼女も親友同士なので、必然的に4人行動が多くなる。
冗談を言い合ったり、女子達はキャッキャと飛び跳ねてみたり、いつものようにワイワイやりながら、学校に着いた。
平穏な1日が、今日も始まる。
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