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5 本人には絶対に言わない(1)
いつも同じ夢を見る。
そしていつも同じところで目が覚める。
いつからだろう、俺はずっと……同じ夢を見ていた。
毎日いろんな夢を見ているはずだが、目覚める前は決まって同じ夢だ。
* * *
目覚まし時計の凄まじい音で飛び起きた俺は、あれからずっと続く、――全てが真っ白な世界――への訪問にもだんだんと慣れてきた。初めはあった多少の違和感も少しずつ薄れて、最近では然程気にならなくなっている。
というよりは、むしろ日常の一部になっていった。
俺はいつものように身支度を整え、学校へ向かう。
昼休み。
弁当を食べ終わると、いつもふざけてばかりいる親友が、いつになく真面目な面持ちで口を開いた。
「ちょっといいか? 相談したいことがあるんだ」
「ああ、何だ?」
何でも、彼女ちゃんの父親が、昨夜入院したらしい。怪我は大したことはなく、1週間程で退院できるとのことだが、父親大好きな彼女ちゃんはひどく落ち込んでいるので元気づけたい、と言うのだ。
なるほど。あのいつも明るく天真爛漫な、誰もが『ちゃん』をつけて呼びたくなる、そんな元気いっぱいでポニーテールがトレードマークの『彼女ちゃん』が、今日は朝から少し元気がなかったのは、そういうことか。
それなら「早速、明日にでも俺たち4人で出かけよう」と提案し、みんなで映画鑑賞をする、ということで話はまとまった。
問題は、『何の映画を観るか』ということだ。夏休みだし、公開中の映画も多い。恋愛映画にアクションもの。ホラーにファンタジーにSFとバラエティーに富んでいる。どの映画も面白そうだし目移りするだろうな。
まあ、みんなの意見を聞いて、明日決めよう。
でも女子はきっと、アイドル主演の甘~い恋愛映画を推してくるんだろうな。
それだけは何としても避けたい。
いろいろ思うことはあるけど、明日に備えて早く寝ることにした。
部屋の灯りを消して、ベッドに身体を放り込む。ほどよい疲労感ですぐに眠れそうだ。
今日も平穏な1日だっ……。
『此処は……何処だ?』
いつものように――全てが真っ白な夢の世界――で、オレは目を覚ます。白以外何も無い空虚の中で、1人佇んでいる。
前後・左右・上下全てが眩しいほどに純白で、足元には自分の影さえも無い。ただとてつもなく広い〈白〉の中で俺は、遙か向こうで誰かが、手を差し伸べているのに気がついた。
恐る恐る近づいて、〈女神のようなその差し出した手〉を掴もうと、俺はそっと右手を伸ばした。
すると……。
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