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6 本人には絶対に言わない(2)
『此処は……何処だ?』
いつものように――全てが真っ白な夢の世界――で、俺は目を覚ます。白以外何も無い空虚の中で、1人佇んでいる。
前後・左右・上下全てが眩しいほどに純白で、足元には自分の影さえも無い。ただとてつもなく広い〈白〉の中で俺は、遙か向こうで誰かが、手を差し伸べているのに気がついた。
恐る恐る近づいて、〈女神のようなその差し出した手〉を掴もうと、俺はそっと右手を伸ばした。
すると……。
目覚まし時計の凄まじい音で飛び起きた俺は、〈女神のようなその差し出した手〉のことが少し気にはなったが、そのことばかりを考えているわけにはいかない。
今日はダブルデートの日なので、ビシッとキメて行かねば!
「行ってきまーす」
身支度を整え元気よく家を飛び出した俺は、早足で待ち合わせ場所へと向かった。駅前広場にある噴水の前だ。
みんな時間には正確なので、約束の時間の10分前には全員揃うことができた。
さあ、問題はこれからだ。
早速、何の映画を観ようかと話し合いをすることに。
ああだこうだと話すうちに、案の定、男子と女子で意見が分かれた。
予想通り女子たちは、『大ヒット上映中』と宣伝している、人気アイドル主演の映画を推してくる。
いくら可愛い彼女たちの頼みでも、俺たち男には真っ平御免だ。その手の映画は女子同士で行ってくれ。
俺と親友はアクション映画を推したが、やはり女子たちには受け入れられず。
結局、夏ということもあり、ホラー映画を観ることで話がまとまったのだ。
アクション映画はダメでも、ホラー映画はいいの? と疑問は残るけど、男性アイドルの主演映画よりはよほどいい。
女子は怖いもの見たさで、案外ホラー好きなのかも。
映画館で俺たちは、親友、彼女ちゃん、彼女、俺の順に4人並んで席についた。結構ハードな内容で、男の俺たちでも『うおー』っと声を出してしまうほどだ。
「キャー」
と俺にしがみつく彼女。
「大丈夫だよ」
と彼女の頭をポンポンしながら、ふと親友たちに目をやると、彼女ちゃんもしっかり親友につかまっている。
ホラー映画なのに真っ直ぐに背筋を伸ばして行儀よく座り、平静を装っている親友の顔。
妙ににやけているように見えたのは、俺だけだろうか。
かく言う俺も、後半ずっと左腕にしがみついて全然映画を観ていない彼女の可愛さに、目尻が下がっていたことは言うまでもない。
映画の後の昼食は彼女たちのたっての希望で、近くのお洒落なイタリアンレストランで、パスタを食べることにした。
カルボナーラにボンゴレビアンコ。ボロネーゼにツナときのことトマトのペンネ。
みんな思い思いのパスタを頼み、サラダとスープも忘れずに。
食事が終わり、俺たちはジンジャエールを飲みながら、さっき観た映画の話で盛り上がった。
ちょっと怖かったけど、あの場面がああだった、こうだったと、4人は盛り上がった。
……4人で、盛り上がった。
ん?
「女子たちはキャーキャー言って、全然映画観てなかったよね?」
俺の素朴な疑問に、親友も同意した。
「そうだよ。内容とかわかんなかったっしょ」
「何言ってんの。キャーって言いながらもちゃんと観てたよ」
彼女の意外な言葉に俺はちょっと驚いた。
「そうなの?」
「当り前じゃん。ちゃんと観ないとチケット代もったいないでしょ!」
なんと現実的なそのお言葉。
得意げに言い放った彼女ちゃんを見て、親友と俺は思わず苦笑いをする。
恐るべし女子、いや、流石女子。
さっきの頭ポンポンと、俺の下がった目尻を返してくれぇ~。
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