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ある田舎で、青年が道を歩いていた。
青年は夏のよそおいで、頭にはキャップをかぶっていた。
キャップには撃墜マークがあしらわれている。
去年おじいちゃんからもらったもので、青年のお気に入りだった。
鼻歌をしつつ歩いていると、道の向こうから、ほっかむりをかぶった両手に二つの風呂敷包みを運んでいる見知らぬおばあちゃんが歩いてきた。
ここは田んぼの密集地。住宅地までまだけっこうある。暇だった青年は、おばあちゃんの荷物運びを手伝おうと思った。
「こんにちは。運びましょうか」
「はいよ、こんにちは。おや、運んでくれるのかい? まだ仕事が残っているんだけどねえ」やや困った顔をする。
「それじゃ仕事が終わるまで荷物持ってますよ」少しぬかるんでいた地面をみて青年は言った。数時間前まで雨が降っていたのだ。
「ほんとに? よくできた若者だねえ」そう言っておばあちゃんは、風呂敷包みを渡してきた。
「よいしょ……これけっこう重いですね」
「はい、はい……はい、と」二つの荷物をぽん、ぽんと渡して両手がふさがった青年に、おばあちゃんは隠し持っていた短刀ですっと相手の首を一閃。
血しぶきを派手にあげてくずおれる青年から「よい、よい」と風呂敷包みをまた手渡しで受け取るおばあちゃん。
「ありがとうね。おかげで手間が省けたよ」
泥だらけの地面に顔面をつっぷしピクリともしない青年をよそに、仕事を終えたおばあちゃんはひいふう言いながら歩き去った。
おばあちゃんは殺し屋だった。
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