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ぴくり。
不意に呼ばれ、あともう少しで指先が光の中に入りそうというところで止まり、ハッとした顔をから一変。葵と呼んだ者へ向けた瞬間、破顔する。
「にいさん!」
駆け足気味に牢の前に佇む大好きな人へと行った。
檻の間から手を出すと、兄は包み込むように両手で葵の手を触った。
「葵。体の調子は大丈夫? 光には触ってない?」
「うん、触ってないよ。にいさんの言いつけを破ろうとしちゃってごめんなさい」
「そうだよ。葵の繊細で白くて綺麗な手を傷つけてしまうのだから。けど、毬を取りたかったんだよね」
「うん」
「いいよ。僕が代わりに取ってあげる」
微笑んだ後、やんわりと手が離れ、唯一の出入り口である扉の方へ行った。
扉には、葵の手では到底及ばない雁字搦めの鎖といくつのもの錠前が掛けられていた。
それほどまでに、葵はここから出てはいけないんだと物語らせる。
兄は手際よく外していき、そして、牢の中へと入ってきた。
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