河童とあたしと夏の星空

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「通学路はこの道って決まってるのよ、無理言わないで」 「ほかにも橋はありますよ、なにもあえてこの橋を選ばずとも」  やけに丁寧な言葉遣いをする河童だ。いやいや、感心している場合ではない。そもそもこの目の前にいる妖怪は何者なんだ。どう見ても河童だが、あたしは河童なんて見るのはじめてだ。いまだに存在すら疑っている。 「あなた、河童?」 「……それはなんですか、哲学的なご質問ですか?」  どうにも会話がかみ合わない。まあそりゃそうか、相手は妖怪だ。河童となんか会話がかみ合うはずもない。  新しい家から学校までの距離は歩いてだいたい二十分。ちょうど家と学校の真ん中あたりに大きな川が流れていて、いまはそのあいだに架かる橋の上で立ち往生してしまっている。  今日は夕方から、楽しみにしていた音楽番組があるのだ。こんな胡散臭い河童に付き合っているひまなどなく、どうでもいいからはやく通してほしい。 「どうでもいいけど、文句があるなら学校に言ってもらえるかしら。この橋が通学路って決まってるのよ」 「どなたがお決めになられたのですか?」 「知らないわよ! 学校の偉い人でしょ」 「お言葉を返すようですが、お嬢様。それでは貴方は学校からお亡くなりになるよう命じられたら、お隠れになられるのですか?」  なんて屁理屈をいう河童だ。通学路というのは決まったものだ。なぜ決まっているかというと単純に危ないからに決まっている。  世の中にはある一定のルールというものが存在していて、そのルールを逸脱するとなにかよくないことが起こったときに対処ができなくなる。管理ができなくなるんだ。それくらい中学生のあたしだってわかることだ。
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