河童とあたしと夏の星空

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 いま、あたしの目の前には河童がいる。  まるでオウムのお化けみたいに大きなくちばしに、お抹茶くらい深い緑色をした身体。つるっぱげの頭から申し訳なさそうに生える薄い髪。ご丁寧なことに背中には平べったい亀の甲羅まで背負っている。  意外にも背は高く、目線はあたしと同じくらい。なんだか少し眠たそうな目つきをしている。いずれにせよ、まごうことなき河童が橋の上に仁王立ちしている。 「ですから、もうここには来ないでほしいんです」  茫然としていたあたしは、河童の口から発せられたその言葉でようやく我に返った。  ここには来ないで、とは……? 「でもこの道、通学路……」 「別の道がおありになるでしょう、なにもここを通らなくても」  両親の離婚を理由にあたしは嫌々ながらも母に連れられ、都心からこの片田舎に引っ越してきた。今週からあたしは、この田舎の中学生として晴れて田舎っぺデビューを果たしている。  離婚については特に思うことはなかった。もともと仕事に夢中で帰りの遅かった父は、いつのまにか家に帰ることも忘れ、知らない女の家に住み込んでいたのだという。自業自得。弁解の余地もない。それについてはもはや語ることなどなにもない。  けれど大好きな友達がたくさんいて、かわいいカフェがあり、気ままにショッピングを楽しめる都心の生活から離れることへの抵抗感と言ったらない。  ましてやこんな竹林と山と川しかない田舎に引っ越してくるだなんて最低な気分だった。きらきらとして華やかだった友人たちの笑い声は夏虫たちの鳴き声へと代わり、カフェやカラオケはせせらぐ川と夕涼みの風に置き換わった。  思春期の乙女からしたら、どうにも耐えがたい環境の変化だ。
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