お前がいい!

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お前がいい!

 宏輝は泣きながら、時折「ごめん」と呟き最後まで俺を抱いた。男同士のセックスでも、やってみりゃ案外上手くいくもんなんだな、なんて一瞬は思ったものの、やっぱりそれは俺にとっては苦痛でしかなく、事が終わってみれば腰の鈍痛と尻穴の違和感と痛みに動けずにいた。 「信じらんねえ……思った以上にしんどい」 「………… 」  すぐそこにベッドがあるっていうのに、硬い床の上で俺は横になったまま。下半身丸出しで何やってんだろう。でも宏輝に剥ぎ取られた短パンとパンツを探す気力も残ってない。 「何で……何で最後までやられてんだよ、いくらでも俺から逃げられただろ!」  宏輝は思いっきり浴衣を着崩したままの酷い格好で、吐き捨てるように俺に言う。どんだけ泣いてんだよ……目が真っ赤で腫れぼったくなっている。宏輝の泣き顔なんて初めて見た。俺はこんな顔が見たかったわけじゃない。  きっと今、宏輝は俺に対して罪悪感でいっぱいなのだろう。でも罪悪感でいっぱいなのは俺の方だ。こんなに優しいこいつをここまで追い詰めてしまったのだから。 「ん……」  俺は両手を広げ宏輝を見つめる。俺がしたかった事が伝わったのか、宏輝はクシャッと顔を歪ませまた泣きながら俺を抱きしめる。 「俺がお前から逃げる理由はないよ。好きにしてよかったんだ。ごめんね……宏輝、お前は悪くない。俺のせいだよな。ごめん……」  顔をくしゃくしゃにして俺の胸で泣く宏輝。俺は頭が悪いから、こういう時なんて言ったら正解なのかがわからない。ただ俺はこれ以上宏輝の辛そうな顔を見るのは嫌だったから、顔を上げさせキスをした。 「いつものあれ、また言ってよ」 「……?」  キョトンとする宏輝が可愛い。少し考えた様子だったけど、すぐにハッとして宏輝は俺にこう言った。 「……もういい加減、俺に……しとけよ」 「うん! お前がいい!」  俺がズルかったばっかりに大事な親友をずっと傷付けてきてしまった。でももう大丈夫。俺もお前を一番に考える。  晴れて俺たちは付き合うことになったのだけど、まだ解決していない問題がある。とりあえず昂ぶった気持ちも落ち着いてきたらしい宏輝に風呂の準備をさせて、俺は重く痛む腰を上げ風呂に入った。  押さえつけられた手首や足に薄っすら痣ができていた。暴れて打ち付けてしまった腰もまだ痛い。宏輝の爪が食い込んだ痕も残っている。自分のせいだとはいえ、やっぱりちょっと怖かった。切羽詰まった宏輝の力に俺は何も出来なかった。微かに震える指先を落ち着かせるようにして擦り合わせながら、これ以上宏輝を傷付けないように気持ちを落ち着かせ俺は風呂から上がった。  部屋へ戻ると着替えを済ませた宏輝が申し訳なさそうに俺を見る。 「なんだよ、浴衣脱いじゃったの? もっとちゃんと見たかったな……似合ってたのに」 「……ごめん」  さっきは余裕がなくてちゃんと見られなかったけど、浴衣姿もかっこよかった。 花火もいつのまにか終わってしまった。 「花火、お前と行けばよかった……ごめんね。来年は一緒に行こうな。浴衣着てさ」 「………… 」  何か言いたげな宏輝の顔。もういいよ、謝らないで。 「あの……さ、体大丈夫? ごめんね……俺、俺、翔琉に酷いことした。本当にごめん」 「それ! ほんっとマジこれ酷えかんな! まあ初めてだししょうがないけどさ……次はさ、その……もっと優しく抱いてくれよ。ちゃんと気持ちくしてくれたらお前がそっち側でいいから……」  本当は俺が宏輝を抱く側がよかったと言いたかったのに。そこんとこはっきりさせたかったのに、宏輝の顔を見てたら言えなくなってしまった。  罪滅ぼし? いや、どうなんだろうな。でも今日は痛くて苦痛だったけど、気持ちよくなれればどっちだっていいや。
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