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壁を越える
俺がしたことはレイプと同じだ──
翔琉はいつもヘラっとしていて何を考えているのかわからないところがある。軽くてお調子者。でも人のことをよく見ているし、その何考えているかわからない頭の中は色んなことを考えているのだろう。きっと頭のいい奴なんだ。
俺の「好き」という気持ちが爆発してしまった。
ヤキモチ、嫉妬、焦燥感、独占欲。そして諦め……実ることのない恋ならいっそのこと終わらせてしまえばいいとやけになってしまった。そのせいで翔琉に酷いことをした。自分さえ満足して踏ん切りがつけばそれでいいなんて、どんなに謝っても許されることじゃない。
きっと翔琉はそんな俺の心情を察してくれて好きにさせてくれたんだと思う。
きっと怖かったと思う。
誤魔化すのが上手な翔琉が少しだけ顔を強張らせたのがわかった。でも「もう謝るな」と言っているような顔をするから俺は言葉が出てこない。翔琉は優しいから、俺の事を傷付けないようにとわざと明るく振舞ってくれているのが嬉しくて、硬くなった心が溶けるように柔らかくなる。
やっぱり俺はこいつが大好きだ──
惚れた弱み、それでいいんだ。
少しずつでもいいから翔琉の心の中の「男同士」という壁を無くしていければそれでいい。
「お前がいい」
そう言ってくれたけど、きっと俺を気遣っての言葉だと思う。だからこれから先「お前を選んでよかった」と言ってもらえるように、もう逃げられないように、俺は翔琉を大切にしようと心に誓った。
end
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