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俺にしとけば
「この埋め合わせは今度絶対!」
グイッと頭を捕まえられ、乱暴にキスをされる。ちっとも悪いとは思ってなさそうなのが腹が立つけど、あの笑顔で見られると許してしまうのが惚れた弱み……
いそいそと出かけて行った俺の親友、翔琉はさっきの電話の様子から彼女のところへ向かったのだとわかった。
今日は前もって約束していたはずなんだけどな。二人で花火大会に行こうって誘ってきたのは翔琉の方なのに。楽しみにしていたこういう約束も簡単にぶち壊されるのはしょっ中だった。
俺の好きな人には女の子の恋人がいる──
好きになったらそれはもう夢中で夢中で、何でもいうことを聞いてあげたくなるらしい。 優しいんだ。それが翔琉のいいところなのに、すぐにフラれる。
「いい人」
「ドキドキしない」
「面白くない」
そんな理由でフラれては、俺のところに泣きついてくる。ほんと見る目がないよな。歴代の彼女達も、そしてあいつも。
そんな馬鹿な女ばっか、見た目ばっかり可愛い女なんか好きになんかならないで、さっさと俺にしとけばいいのに……
俺が「好きだ」と告白をしても嫌な顔一つしないで喜んでくれた。「俺も好きだよ」なんて、何も考えてない軽い言葉に拍子抜けした。
俺にとっては一世一代の告白だったんだ。
あんな返事されたらてっきりOKかと思うじゃん? 毎日一緒にいて「キスしたい」って言ったらしてくれるし俺達は当然付き合ってると思っていたら、突然「彼女が出来た」と言ってきた。
は?
もうわけわかんねえし。
それで女の子と付き合っては、すぐにフラれて俺のところに泣きついてくる。「慰めて」って言われる度に、俺はこいつのいい所をつらつらと並べ立てて励ましてやる。
泣いたり愚痴ったりするのはきっと俺の前でだけ…… 結局は居心地のいい俺のところに戻ってくるんだ。
「俺にしとけば?」
この言葉も何度伝えたことだろう。
「え? だってお前男だよ?」
そう言って笑うから、俺もそれ以上の言葉は飲み込んで一緒に笑うことしかできなかった。
今日もまたいつものように翔琉は彼女のところに出かけていった。花火大会に誘われたと、ご丁寧に俺に報告までして出かけていった。
俺は一体何なんだろうな……
一応恋愛対象として見てもらえているのか、キスはしてくれる。思わせぶりな態度をとられ、それでも「男」だという理由で優先順位が下がるのはもう嫌だ。
どうせ今会いに行った彼女にもフラれるんだよ。ちょっと俺がモーションかけたら媚びてくるような女なんだ。今までの彼女達もみんなそう……
ほんと見る目ない。
俺は楽しみにしていたデートの予定もなくなって、一人寂しく部屋の窓から見えない花火の音だけをぼんやりと聞いている。浴衣まで着て馬鹿みたいだ。部屋の明かりを消し、ビルの間から漏れる花火の僅かな明かりを眺めながら缶ビールをあけた。
はっきり言ってもう限界──
案の定、花火もまだ終わってない時間に翔琉は俺の家に戻ってきた。酔っ払ってるのか赤い顔。酔うと少しだけ喋り方がゆっくりになるのが可愛いんだよな。
「もしかしてまたフラれたの?」
「………… 」
慰めろと言わんばかりに俺の膝に頭を乗せて横になる。いつもならすぐに頭を撫でながら慰めてやるところだけど、今日ばかりは違うから。
最初で最後──
これで翔琉が俺のものにならなかったらもうおしまい。
いいんだ。
もうおしまいにしたいから。
俺の膝枕で横になる大好きな人にキスをする。キスをしながら抱きしめ、そのまま馬乗りになった。驚く彼に構わずに押さえつけ、俺はいつものセリフを囁いた。
「もう、俺にしとけよ……」
ヘラっと笑って誤魔化そうとするのを黙らせるために掌で口を塞ぐ。
「いい加減……抱かせろ」
そう言って俺は、驚き抵抗する翔琉を無理やり抱いた。
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