花火が夏の空を彩る夜に

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夏の風物詩である花火大会。 空を煌びやかに彩る花火を見上げ、多く集まった観衆が感嘆の声を漏らす。 様々な色をした火花が大きく広がり、次の瞬間には身体の芯まで響き渡るような爆発音がする。 何発もの花火が連続で上がり続ける。 その光に照らされた彼女。 花火よりも君の方が綺麗だというのは、もう定番文句だと思う。 人によっては、あまりにも定番過ぎるその決まり文句に、呆れた顔さえしそうな言葉だ。 それでも、やはり花火に照らされた彼女は綺麗だと思うし、花火を見るよりも彼女を見ている方がよっぽど楽しい。 大きな音が辺りの音をかき消す中彼女に告げる。 「本当に綺麗だね。」 その言葉は、彼女に届かない。 鳴り響く爆発音に共鳴するかのように、自分の中でも感情が爆発するように昂ぶる。 「ちゃんと見えてるかな?花火、綺麗だね。それを見ている君はもっともっと綺麗だよ。あぁ本当に、君は綺麗だ。」 浴衣を着た彼女の腰を抱き、自分の肩に彼女の頭を凭れかけさせる。 香水の甘い香りが漂い、自分の下半身が熱くなるのを感じた。 瞬きをしない彼女の瞳は真っ直ぐ花火を見つめている。 少し乾いた瞳にはぼやけた花火が写りこんでいる。 「うわ、やばくない?ここ穴場じゃん。誰もいないよ。」 「でも怖くない?薄暗いし、立ち入り禁止のやつ貼ってあったじゃん。」 「大丈夫だって。バレないよ、誰かいるわけじゃないしさ。ほらほら、めっちゃ綺麗じゃん。」 二人組みの女の子たちの声が近くで聞こえている。 花火大会の穴場であるここを見つけて入ってきたのだろう。 物陰になっている自分のほうから、彼女たちの横顔が見えた。 近くで上がる花火に照らされ、華奢で小さな顔が浮かび上がる。 浴衣を着て、ばっちりメイクを決めた可愛い顔立ちをした子達だった。 歳は、大学生ぐらいだろうか。 自分の肩に凭れかかっている彼女と同じぐらいの歳だろう。 「君も、友達と見たいよね。待ってて。僕が連れてきてあげるよ。」 彼女を木に凭れ掛けさせ、少し硬い首を花火のほうに向け固定する。 花火を見つめる彼女は心なしか嬉しそうだ。 友達と見れることを喜んでいるのかもしれない。 物音を立てないようにそっと立ち上がり、彼女たちがいるほうへと近づく。 彼女たちは空を彩る花火に注視しており、体に響くような爆発音によって自分の存在に気付かない。 そっと背後に忍び寄り、花火に夢中になっている彼女たちの首に勢い良く刃物を突き立て、引き抜いた。 真っ赤な真っ赤な花火が目の前に広がる。 自分の心臓が爆発を繰り返すように大きく何度も打ち付け、吹き出す火花に全身が粟立つほどに興奮した。 「あぁ、綺麗だ。君たちはとても綺麗だ。」 赤い彼女を両脇に抱え、座った股の間に首に線の入った彼女を凭れ掛けさせる様に座らせた。 浴衣の似合う可愛らしい彼女たち。 香水の甘い香りとシャンプーなどの華やかな匂い。 そして強く香る鉄のような匂い。 花火に照らされ、それを見上げている彼女たちはとても嬉しそうだ。 友達が増えて嬉しいのだろう。 楽しそうな彼女たちに囲まれ、益々下半身に熱が集まる。 「綺麗な君たちに囲まれて、僕は嬉しいよ。ちゃんと後で可愛がってあげるからね。あぁ本当に、君たちは最高に綺麗だ。」 『○○県××市で開かれた花火大会会場近くの山奥で、女性3名の遺体が発見されました。2名は首を刺され、1名は首を絞められたような痕があり、暴行を受けた形跡があったということです。現場に犯人はおらず、被害女性たちも面識はないことから、無差別だったと考えられます。凶器は見つかっていません。計画的犯行の可能性があり、詳しいことは現在捜査中です。また、第一発見者の話によると、その場所は以前は花火大会の穴場スポットとして地元では有名な場所だったようです。現在では、観覧する場所として整備が行き届いていないことから、山道入り口には規制線が張られ入れないようになっているようです。滅多なことでは人は訪れない場所ですが、簡単に入れるので間違えて入ってしまったのではないかとのことです。』 --え、やばくない?グロ。 --人気がないとこだったんだろ?自業自得じゃん。 --花火見てるときに背後なんか気にしないでしょ。マジで怖すぎる。 --そんなの聞いたら花火大会行けない。今年はやめとこー。 --花火見ながら人殺すとかマジで頭湧いてる。絶対サイコパスだろ。 どうか、皆様お気をつけて。 浮かれて視野が狭くなっているあなたの背後には、誰がいますか? あなたと一緒に笑い合える友達でしょうか。 あなたに優しい眼差しを向けてくれる両親でしょうか。 あなたを守ってくれ、綺麗だと愛を紡いでくれる恋人でしょうか。 それとも、自身の興奮に呑まれた見知らぬ人間でしょうか。 気分が浮かれる夏休みはもう直ぐそこ。 くれぐれもお気をつけください。 「あぁ、本当に君は綺麗だ。」
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