洸平 11歳

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蛍が集まるという川には何人かの人がいた。 ぼうっと光っては消える大量の光はまあまあ綺麗だったが、あの光の一つ一つが虫だと思うとその数に身の毛がよだつ。 「綺麗ねぇ」と言いながらうっとりした顔で蛍を眺める母親の傍を離れ、洸平はつまらなそうにウロウロと歩いた。 街灯がないわけではないが、辺りは暗い。ふわふわと動き回る蛍の光に誘われるようについて行くと、川べりに座り込んでいる女の子の後ろ姿が見えた。 長い黒髪が背中の真ん中くらいまであり、白い浴衣のような物を着ている。小刻みに肩が震えているような気がしたので近づいてみると、どうやら泣いているようだ。 「…どうしたの?」 おそるおそる洸平が声を掛けると、女の子はゆっくり振り返った。 振り返った顔がのっぺらぼうだったらどうしよう、などという怖い想像をしたがそのようなことはなく、女の子は大きな目に涙を溜めながら洸平を見つめた。 同い年くらいだろうか。 透き通るくらいに白い肌。 黒目がちで大きな瞳。 ピンク色のぷくっとした唇。 洸平はその愛らしい顔に一瞬で釘付けになった。 すると女の子は立ち上がり「こうすけ…?」と首を傾げた。 暗いし誰かと間違っているのかと思ったが、洸平は訂正するでもなくもう一度「どうしたの?」と尋ねた。 「これ…」と言いながら差し出してきた女の子の両手の中には、蛍が一匹潰れている。
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