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思った通り、玄関の前まで来ると蝉は死んでいたものの、死骸は頭部と羽根のみ残され腹部がない。辺りを探るも見当たらない。
まぁそれでも蝉は蝉だしカラスにでも食べられたのかもしれないね、死骸を拾って同意を求めると田中くんが固まってしまう。
急に身動きしなくなる田中くんが心配になり蝉の頭を瞳の前に横切らせ、鼻先を羽根で擽ってみる。すると田中くんは僕の手を勢いよく払い退け、玉の汗を散らしながら更に気味悪がったのだ。
これに僕は愕然とした。蝉を捕まえたいと言い出したのは田中くんじゃないか。生きている姿が見たいと察せなかったを反省してみるも後退りされる始末。
教室の問題児扱い同士、なんとなく繋がりめいたものを感じていたけれど、もしかして僕と田中くんは杏仁豆腐とヨーグルトくらい別物かもしれない。
そして別物だと気付くと、白くてどろどろしたものが胸の中にたまり、あふれそうになる。慌てて手を当てそれを塞き止めようとした時、ミーン、ミーン、ミーン、決壊を報せる音が自分の中より響いてきた。
ミーン、ミーン、ミーン。ミーン、ミーン、ミーン。
ならば生きている蝉を捕まえに行こう、気まずそうにする田中くんに僕は微笑む。1☓5=5、6☓9=54、改めて誘えば田中くんも気を取り直してくれたのか、笑って応じてくれる。
ミーン、ミーン、ミーン、ミーン。
ミーン、ミーン、ミーン、ミーン。
僕らは来た道を戻り、蝉の声を追いかけた。
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