蝉と田中くん

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0☓2=0  そう言えば田中くん、最近見てないの何か聞いてないかしら。採点を終えた先生に尋ねられ、僕は知らないと傾げる。満点がついたドリルを抱え、外へ視線を流す。  ミーン、ミーン、ミーン、ミーン、秋と転校の気配が近付いても蝉はまだ鳴いていた。  ミーン、ミーン、ミーン。ミーン、ミーン、ミーン。きっと真冬になっても僕には聞こえるんだろう、胸に手を当ててみる。  先生もつられて景色を眺め、陽も随分和らぎ過ごしやすくていいわねと笑った。それから思い出したようお母さん早く良くなりますようにと付け加える。  僕はありがとうございますと返して、そんな先生の透明な笑顔に今日のおやつはナタデココを食べようと決めた。  
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