夢のはじまり

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夢のはじまり

「テニス部でーす。体験入部来てねー」 「バレー部、今日、練習試合やりまーす。見にきてねー」 「調理部です。今日の放課後、クッキー作りをやるので、一緒に作って食べましょうー」 校門を入った途端に、部活への勧誘の声が降り注ぎ、またたく間に私の両手はチラシで一杯になった。 入学式、オリエンテーション、健康診断などの入学に伴う行事が一通り終わり、いよいよ本格的に私の高校生活が始まった。今日から2週間は部活動の仮入部期間だ。 「ひなちゃん、おはよう」 後ろから声をかけてきたのは、高校に入って初めてできた友達の川原(かわはら)いずみだ。その手にもたくさんのチラシが乗せられている。 「おはよう、いずみちゃん。すごいチラシだね」 私達はお互いの手の中のチラシを見て笑い合った。 教室で席が近くになって声をかけられたのがきっかけだったが、その柔らかな笑顔にすぐに打ち解けて、友達になった。 「ひなちゃんは何部に入る?私は調理部がいいかなって思ってるんだけど。今日、クッキー作るんだって。一緒に行ってみない?」 ウェーブのかかった髪をふわふわさせてにっこり笑ういずみには、調理部でクッキーというのがとても似合うと思った。 「私は料理はあんまりかな」 せっかく誘ってもらって申し訳なく思ったが、調理部に入る気はしなかった。何しろ、料理ならうちで毎日やっている。 「そっか。ひなちゃんは運動部の方が合ってそうだもんね」 いずみは私を見て言った。 髪は短く、細身で筋肉質。よく何かスポーツをやっているのかと聞かれるが、特に何もやっていない。というか、それほどスポーツが得意ではない。特に、足は驚くほど遅い。 「ひなちゃんならテニスとかバドミントンとか陸上とか似合いそう」 つまり、身長が関係ないスポーツか。確かに152cmの私がバレーボールやバスケットボールをやるとはとても思えないだろう。 「部活はやらないかも。バイトしたいし」 私はそう答えた。 高校に入ったらバイトをするというのは、私がずっと考えていたことだった。 そんな話をしながら歩いている間にも、私たちの手の中にはたくさんのチラシがどんどん溜まっていっていた。
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