最後の夏

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お盆が過ぎた夜、私は先輩に送られて家に帰るところだった。 「今年は花火、見られませんでしたね」 私は昨年のことを思い出していた。先輩は花火の日に好きだって言ってくれたんだ。あれから、もう1年も経ったなんて、信じられない気持ちだった。 「花火、しようか」 先輩が言った。 私達はコンビニで花火を買って、海に向かった。 夜遅い時間の海は誰もいなくて静かで真っ暗だった。 私達は手持ち花火に火をつけた。 パチパチと弾ける花火は、子供の頃に遊んだ時よりも短く感じて、私達は次から次へと火をつけた。 あっという間に残りは線香花火だけになった。 「もうこれで終わりですね」 「そうだな」 先輩は線香花火に火をつけた。 「俺さ、近くの国立大学に行こうと思ってたんだけど」 先輩が話し始めた。 「昨日、杉野監督から連絡があって、東京の明応大学の野球部のセレクションに行ってみないかって言われたんだ」 セレクションと言えば、大学の野球部が行う練習会で、そこで評価してもらえると大学に推薦入学できるかもしれないという審査会のようなものだ。 「その大学の野球部の関係者の人が杉野監督の知り合いで、あのノーヒットノーランの試合をたまたま見てくれてたみたいで。でも、全国大会にも出てないし、何もしないで推薦入学させるのはちょっと弱いから、セレクションで監督さんとかコーチとかにも見てもらいたいって言ってくれたらしくて…」 先輩は線香花火を見つめながら、ぼそぼそと話した。 「すごいじゃないですか。きっと大丈夫ですよ。先輩なら合格します」 私は興奮していた。先輩が明応大学で野球をするなんて…。そこで活躍すれば、プロ野球選手にだってなれるかも…。 「でも、私立だし東京となると一人暮らしで、とにかく金がかかるからな」 確かに…。でも、せっかくのチャンスだ。掴んでもらいたい。 「お金はなんとかなりますよ。奨学金だってありますし」 線香花火が消えた。先輩は立ち上がった。 「うちの兄貴、大学やめてるんだよな」 先輩は海の方を見ながら話を続けた。
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