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風邪をひいた夜に
先輩のセレクションは上手くいったらしく、大学から正式に誘いがあり、明応大学スポーツ科学部への入学が決まった。
先輩は放課後は野球グラウンドに来て、後輩達と一緒に練習をするようになった。
夏の大会の県予選でベスト4に残ったことで、新たに入部を希望する生徒が現れ、今は部員が20人を超えていた。
スコアラー志望の生徒も3人入部してきて、彼らにスコアブックの書き方を教えることも私の仕事のひとつになった。
11月に入ると指定校推薦やAO入試で大学入学を決めた人達が増え始めた。野球部でも成績のいい要先輩が指定校推薦をとったので、部活に戻ってきた。
水沢先輩が投げて、要先輩が受ける。このバッテリーの姿が見られるのも、あともう少しと思うと、寂しい気持ちになった。
私は寂しさを紛らわせたくて、先輩といろいろなことをした。学校帰りにクレープを食べたり、ゲームセンターへ行ったり、本屋に寄ったり、カラオケにも行こうとしたけれど、先輩は絶対に行ってくれなかった。
来年はできないかもと思って、クリスマスイブにはお店を休ませてもらって電車に乗って、遊園地に行った。イルミネーションが売りのその遊園地はカップル達でいっぱいだった。私と先輩も他のカップル達と同じように腕を組んでイルミネーションの下を歩いた。
お正月は、今年も1月3日に近くの神社で2人で初詣をした。
去年の初詣の願い事は2つとも叶った。今年は何を願えばいいだろうか。
私は悩んだが、1つだけ願うことにした。
先輩が大学野球で活躍できますように
それだけを強く願った。
「何を願った?」
先輩に聞かれた。
「秘密です」
私はそう答えた。
本当は今年も先輩と一緒にいられますようにと願いたかったが、それは無理だとわかっていた。
「今年は先輩と違うかもしれません」
私はそう付け加えた。
先輩は不思議そうな顔をしながら、私の手を握って歩き出した。
会えなくなっても、この手の温かさを覚えていられますように
私は願い事をひとつ付け加えた。
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