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1月に入ると3年生は授業がなくなるので、学校に来なくなった。それでも、先輩は練習をしに、放課後だけ学校に来た。休んでしまうと体がなまってしまうからだと言っていた。
そして、2月を迎えた。先輩の卒業式まで1ヶ月と少しとなっていた。
前日から喉が痛いと思っていたが、朝起きると熱っぽかった。体温計で測ってみると、38℃を超えていた。さすがに学校に行くのは無理そうだったので、仕事でうちにいなかった母に連絡して、学校に電話してもらった。
普段は風邪ぐらいで病院に行こうなどとは思わないのだが、できるだけ早く治って学校に行きたかったので、病院に行って薬をもらってきた。そして、港軒に風邪で休むと電話をして、薬を飲んで眠った。
ぐっすり眠っていたようで、目を覚ますともう夜の9時を過ぎていた。熱は下がっているようだった。これなら、明日は学校へ行けそうだと私はほっとした。
そのとき、アパートのドアがノックされた。私はドアに近づいて、のぞき窓から覗いた。そこには圭一が立っていた。
私はパジャマ姿だったので、カーディガンを羽織ってドアを開けた。
「圭ちゃん、どうしたの?」
「大丈夫か?風邪ひいたんだって?」
圭一は言った。
「うん。でも、もう熱も下がったし、大丈夫。どうして知ってるの?」
私は不思議に思った。
「おばさんから母さんに電話があってさ。ひなが風邪ひいて学校休ませたから、何かあったらよろしくって」
なるほど。そういうことか。
「これ。母さんが持ってけって。クリームシチュー。ひな、これ好きだっただろ」
圭一が差し出した紙袋にはタッパーに入ったクリームシチューとプリンが入っていた。
「プリンはコンビニで買ってやつだけど、ひな好きだろ」
私は圭一から紙袋を受け取った。
「ありがとう。おばさんにもありがとうって伝えてね」
私は受け取った紙袋を後ろのテーブルに置こうと圭に背中を向けた。
「これ、今、中身出して洗って返したほうがいいかな」
そう言った時、いつのまにか私の後ろに近づいていた圭一に後ろから抱きしめられた。
「圭ちゃん?」
私は驚いて動けなかった。
「ひな、うちに帰ってこいよ。こういうときに1人だと不安だろ?うちにいれば看病してやれるし、食事の心配だってないし」
「私、1人で大丈夫だから」
私は圭一の手を引き剥がそうとしたが、離してもらえなかった。
「大丈夫じゃないだろ。昔から寂しがり屋のくせに強がるなよ」
私はなんとか圭一を振り払って、向き直った。
「私はもう小さい頃とは違うの。圭ちゃんにかばってもらってた私とは違うの」
「違わないよ。あのころと何も変わらない」
圭一は私にせまってきた。圭一の勢いに押されて後ずさった私は足を取られて尻餅をついた。床に倒れた私に圭一は覆いかぶさってきた。
「あの頃からずっと変わらない。俺はずっとお前が好きだった。それなのに、あいつは急に俺たちの間に入ってきた。でも、あいつは東京の大学に行っちまうんだろ。俺はずっとここにいる。ここで、プロのサッカー選手として活躍する。お前を有名サッカー選手の彼女にしてやる。あいつより俺の方がお前を幸せにできる」
圭一は私を押さえつけてきた。わたしは身動きが取れなかった。
「圭ちゃん、やめて!お願い、離して!」
私は身をよじって叫んだ。
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