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「俺も聞きたいことがある」
先輩が私の顔を見た。
「俺はいつまで先輩なんだ?」
私はどういう意味かわからなかった。私が黙っていると、先輩がまた言った。
「俺はいつまで『先輩』って呼ばれるんだって言ってるんだ」
私はやっと何を言われているのかわかった。
先輩は呼び方のことを言ってるのだった。
「だって、先輩は先輩ですよ?」
私はそう答えるしかなかった。他の呼び方をしようなんて思ったことがなかったのだ。
「普通は付き合ってたら、名前で呼んだりするんじゃないのか?」
そうか。先輩は名前で呼んで欲しいのか…。
「じゃあ、蓮さん?蓮くん?それとも呼び捨て?なんだか、どれも違和感あるんですけど…。学校にいるうちは先輩ですしね」
先輩は私の返事が気に食わないようだった。
「学校にいるのは明日までだぞ。その後はどうするんだ?」
「そう言われても…」
私は困ってしまった。先輩に先輩以外の呼び方なんてできそうもない。
「もういい」
先輩は不機嫌な顔になってしまった。
「怒らないでくださいよ。蓮くん、蓮さん、蓮ちゃん、蓮?」
私は先輩の顔を覗き込みながら、呼んでみた。
先輩は不機嫌な顔を崩して、笑った。
「もういいよ。呼びたいように呼べ」
先輩はそう言うと、前を見て歩き出した。
私はその場で立ち止まった。
そして、先輩を呼んだ。
「先輩」
先輩が振り返った。
「大好き」
私は目一杯の笑顔で言った。
「俺も」
先輩はそう言って、私に手を差し出した。
私は先輩の手にふれた。
先輩は私の手をしっかり握って歩き出した。
海面は夕陽を反射してキラキラ輝いていた。
いつまでも、こうしていられたらいいのに。
私はこれまでにも何度も願ったことを、また願わずにはいられなかった。
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