それぞれの旅立ち

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翌る日、清海南高校の卒業式が行われた。 式の後、卒業生は教室に戻って卒業アルバムや記念品が配られたり、写真を撮ったりするが、1、2年生はその場で解散となった。 私は野球グラウンドに向かった。先輩とそこで待ち合わせをしていたからだ。 しばらくこれまでに書いたスコアブックを見返していると、水沢先輩がやってきた。胸には花をつけ、手には卒業証書の入った筒を持っていた。 制服姿の先輩を見るのもこれが最後だと思うと、また寂しさが増した。 やがて、他の先輩達も集まってきた。先輩達は3年間の高校生活の思い出話に花を咲かせていた。私はじゃまをしたくなかったので、そっとその場を離れた。 野球グラウンドから出てぶらぶらしていると、杉野理香が現れた。 「奥上林山さん」 理香は私に声をかけてきた。 「卒業おめでとうございます。野球部は野球グラウンドに集まってますよ」 私は理香が先輩に会いにきたのではないかと思った。 「そっちも後で行くけど、今は、あなたを探してたの。あなたに言っておきたいことがあったから」 私は少し身構えた。私は理香から見れば、憎い恋敵なのだろうと思ったから。 「あなたにお礼を言っておきたかったの」 そう言われて、何のことかよくわからなかった。 「私、子供のときから蓮のことが好きで、蓮の投球が好きだったわ。中学で手術をした後、チームをやめてしまったとき、何度も戻って来てって頼んだけどだめだった。高校で硬式野球部に入ったと知った時は嬉しかったわ。でも、ピッチャーにはならなかった。だから、何度もピッチャーをやってって頼んだ。でも、どうしても首を縦にふってくれなかった。それが、あなたが現れたことで変わった。私ではだめだったのに、あなたに言われて、蓮はマウンドに立った。 理香は私をにらんだ。 「それは私のためではなくて、右代先輩が肩を痛めたから…」 私はもごもごと言ったが、遮られた。 「それはきっかけに過ぎないわ。それがなくても、あなたが勧めれば、蓮はいつかきっと投手に戻った」 私は何も言えなくて黙っていた。
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