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「あなたを責めてるわけじゃないの。蓮が私の方を向いてくれないことぐらい、私にだってわかってたし。でも、それでも、私は蓮に投げてほしかった。蓮の投げてる姿が1番好きだったし、1番輝いてる姿だって知ってたから」
理香は昔を思い出しているような遠い目をした。
「だから、ありがとう。蓮が投げられるようにしてくれて、ありがとう」
理香はじゃね、と短く言うと、手を振って野球グラウンドの方に去って行った。野球部員達と別れを惜しむのだろう。私はもうしばらく戻らないことにした。
サッカーグラウンドを見ると、サッカー部員達が集まっていた。圭一はその真ん中で大きな花束をもらって、楽しそうに笑っていた。まわりには泣いている女子もいた。そちらにも近づくことはためらわれたので、また別の方角へ歩いた。
校庭でも体育館でも誰かが誰かと別れを惜しんでいた。私は学校をぐるりと一周回ってしまっていた。
野球グラウンドの近くに戻ってくると、野球部員達が走り寄ってきた。
「ひなちゃん、どこにいたの?」
「みんなで探したよ」
私は部員のみんなに引っ張られて、野球グラウンドに戻った。
「ひなちゃん、今までどうもありがとう」
要先輩が私に花束を差し出した。
「ありがとう、ひなちゃん」
「ひなちゃんのおかげで俺たち、勝てたよ」
「ひなちゃんのいる野球部はとても楽しかった」
「本当にありがとう。ひなちゃん」
先輩達は口々に言った。
私は泣くつもりなんてなかったのに、いつの間にか涙がこぼれていた。
「泣かないでよ、ひなちゃん」
先輩達が私を取り囲んで、肩や背中をぽんぽん叩いて、泣き止ませようとしてくれた。
「ひな」
水沢先輩が私を呼んだ。
私が顔を上げると、頭に帽子が被せられた。
「これもみんなから」
私はそれを頭から取って、見た。
新しい野球帽だった。
「前のは古かったから」
先輩達はにこにこ笑って私を見ていた。
私は嬉しくて、また涙がこぼれた。
「ごめんなさい、私が送り出す方なのに。私がこんなにしてもらってしまって…」
私は泣いてしまって、声にならなかった。
先輩達は私が泣き止むまで、ただ私の背中や肩を撫でたり叩いたりしてくれた。
私が泣き止んだころ、下校時刻のチャイムが鳴った。
「じゃあ、帰るか」
誰かが言った。
「じゃあ、またな」
「ああ、またな」
先輩達は口々に別れの言葉を言いながら、帰って行った。
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