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序章
ジャラン、ジャラン────
真っ暗闇の空間の中、手足を拘束している鎖が擦れる音が響き渡る。
──ああ、またこの夢か。
俺は毎晩の如く、年端のいかない子供の体躯となった自分に気付くや否や、やっと幾度となく体験してきた夢だと認識する。
「………………」
毎度ながら声は出ない。
というよりか、夢の中の自分。
百草遥希が口を開くつもりがないのだろう。
いつもながら俺は、虚ろな瞳で周囲を見渡すだけだ。
周囲には、おぞましい程の蝋燭の立て掛けられている。
まるで儀式か生け贄の祭壇だ。
まあだが、正面で俺を見下ろす化物は、今日も飽きずにただ眺めるだけ。
危害は加えてこない。
それどころかその化物は何が楽しいのか、俺の一挙手一投足を見る度、目を細めている。
そしてあいつは暫く楽しんだ後、近くに寄りいつもこう言うのだ。
「そろそろ起きる時間ではないか?」
──────と。
それを聞いた瞬間、こちら側の俺は毎回眠気に襲われる。
「ふっ……眠るが良い、百草遥希よ。 本当の意味で目を覚ます時まで……」
漆黒のバカデカイ狼に、母のように見守られる最中。
そうして俺はまた目を覚ます。
夢なのかどうかすら曖昧な闇の世界から、残酷な光の現実へと。
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