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怪異を覗く瞳
「百草、お前は今日でクビだ。 明日から来なくて良いぞ」
「え……」
いきなりのクビに、俺は呆然としてしまう。
今日はまだ何もやらかしてない筈だ。
意味がわからない。
「ち、ちょっと待ってくださいよ! そんな事いきなり言われても困りますよ、店長! 僕にも生活が……!」
俺は咄嗟に食い下がる。
すると店長は、椅子をギッと軋ませながら、疲れた様子で溜め息を吐いた。
「ハァ……俺だってお前を好きでクビにしたい訳じゃねえんだ。 仕事を覚えるのは早いし、自分のミスは自分でカバー出来るだけの要領の良さもある。 これからも働いてほしいってのが、本当の気持ちだ」
「なら……!」
「けどそうもいかねえんだ、悪いけどな。 俺ぁよ、お前の周囲で怪奇現象や奇妙な出来事が起きるなんて与太、信じちゃいなかった。 前まではな。 けどよ百草、お前を見てて分かった。 お前は何かに取り憑かれてるってよ。 こっちも客商売だ、お客に迷惑かけるわけにいかん」
店長はそう言いながら立ち上がると、俺の肩に手を置く。
そして通り抜け様に、重々しい口調でこう言ってきたのだ。
「お前みてえな普通じゃねえ奴は、置いておけねえのよ。 すまねえな」
「…………っ」
幾度となく言われてきた言葉を。
「くそ!」
バイト先だったスーパーから逃げるように去っていった俺は、ボロアパートの近くの公園でブランコの支柱を思い切り蹴った。
「いっ!」
だが蹴り方が悪かったらしく、足がジーンとなる。
それを眺めていた、二匹の化物がケタケタと……。
「何見てやがる! お前らのせいで俺は!」
「ひい! す、すいません……!」
「あ……」
しまった、またやらかした。
ベンチで手を叩いている常人には見えない餓鬼に叫び散らしたつもりが、公園の脇を通っていたサラリーマンに当たり散らした様になってしまったのだ。
完璧に自分が言われたと勘違いしたのだろう。
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