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「ごめんなさいねぇ、遥希ちゃん。 つららちゃんが腰を折っちゃって。 それで、うちで働こうと思った志望動機はなに? 遥希ちゃんの事だから相応の理由があるのでしょう?」
「ああ、まあな……」
重たい空気を纏った俺に、誰もが押し黙る。
沈黙が店内を包み込み、三人の視線がこちらに集まっているのを感じていたその最中。
グラスの氷がカランと鳴ったのを皮切りに、俺は淡々と語りだした。
「今回の件……八尺の件を経て、ちょっと思うところがあってさ。 昔からこんな騒動ばかりだったろ、俺って。 だから、人に避けられてるのもあったけど自分からも関わらないようにしてた。 俺のせいで誰かが犠牲になるのは嫌だったから」
「……そうね」
もう両親みたいに、ただ居合わせただけで喰われるのを見るのは御免だ。
あんな目に誰にも遭って欲しくない。
けれど今となっては、そうも言ってられない状況。
「でもきっと……いや、絶対といっても良い。 今から来る予定の越見さんは、間違いなく俺に関わってくると思う。 彼女はそういう人だ」
「まあ……確かに。 百草さんの隣に居る為なら、多少の覚悟はしてしまいそうですからね」
「だろ? だからもうこれまでみたいに逃げていられない。 自分の事だけ考えて拳を振るう訳にはいかないんだ」
呟きながら俺は拳を握りしめる。
そして閉じた目蓋の裏側で越見さんを浮かべながら、一呼吸置いてこう言った。
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