バイト探訪の旅

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 出ていったおじいさんにレジから笑顔を振り撒いているのが、昨日電話で話した店長さんだろうか。  声でも感じていたが、本当に若い。  俺とそう年の差は無いように見える。   「いらっしゃいませー」  最近ではあまり見かけなくなった手動の扉を開けると、お姉さんは乱れた商品の手直しをしていた。  店には一人なのだろうか。  せかせかと忙しなく働いている。  だが俺に気付くと店長さんは手を止め、こちらに……。 「あっ! も、もしかして百草くん!?」 「は、はい。 バイトの面接に来た百草ですけど……」  なんだろう、俺の顔を見た瞬間、驚きの表情をされたんだが。   ジロジロ見てくるし。  やっぱり俺の事を知っているのかもしれない。  しかしそれも一瞬。 「そっか、うん。 じゃあ準備するから待って貰える?」  予定どおり面接をしてくれる様だ。  お姉さんは仕事の顔に戻すと、そそくさと事務所へと姿を消してしまった。  それから数分。   「お待たせしました」  まったく客の来ない店を物珍しく徘徊していたら、お姉さんが戻ってきた。  腕の中に、エプロンを携えて。 「ではこちらを着てください。 いきなりで申し訳ありませんが、研修と参りましょう」  おっと、そうきましたか。   「んっと、このボタンが会計だから……。 おし、出来た。 お待たせしました、こちら五十円のお返しです」 「ありがとねえ、ほいじゃあまた来るでなぁ」 「ありがとうございましたー」  バイトが始まり、はや二時間。  既にレジはマスターしたといって過言ではないだろう。  特にミスもなく、お客さんは軒並み満足して帰ってくれている。  まあ客と言ってもおばあちゃんおじいちゃんばかりだから、そうめったな事は起きそうにないが。 「うんうん、良いね。 やっぱり私の目に狂いは無かったよ」  タバコの補充をしていた茶髪のポニーテールがチャームポイントの店長。  越見陽菜(こしみひな)さんが、満足そうに何度も頷く。
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