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熱いキスが降ってくる。彼女がこんなに情熱的だったなんて。出会った時の清楚な印象とはまるで違う。俺は何とかすずを押し戻した。 「待って待ってちょっと!まだ一日は長いんだからまずはテレビ見ながら話でもしない?プレゼントもあるんだ!すずのイメージにぴったりだなと思って!」 すずは、パッと笑顔になった。 「あっ…ごめんね。長い間こういうことしてなかったから、夢中になりすぎちゃった…プレゼント!?ありがとう!開けていい?」 中身は黄色い花の絵が描かれた風鈴だ。 「風鈴を見ると何故かすずの笑顔を思い出すんだよ。LINEのアイコンも花だろ?だからつい買っちゃって」 すずは驚いた後、不気味にニヤリとした。俺の脳の奥で、またチリンチリンと音が鳴った。何故、今? 「ありがとう!ここに飾るね!」 不気味だと思ったのは気のせいか。すずは嬉しそうにベッドの上に立ち、隣接しているカーテンレールに風鈴をぶら下げた。 それから俺達はテレビを見て話をし、だんだんいい雰囲気になり、ついに二人でベッドに入った。キスに夢中になるうちにタイマーをセットしていたエアコンが切れて室内が暑くなり、汗ばんでくる。 そんな状態でも、すずの体は冷たい。 「すず……体冷たくない?大丈夫?」 「冷え症なの。大丈夫よ。続けましょ…」 すずが深いキスをしようとした。その時だ。彼女の頭上でチリンチリンと音がした。風もないのに風鈴の(ぜつ)が揺れている。 「な、なんで動いてるんだ!あれ!」 目を見開いて指を差す俺を見ながら、すずは別人のような表情で呆れている。 「えぇ?はぁー……まだ気づいてないのぉ?虐めた方は覚えてないって言うけど本当なのね。私はアンタと違って意地悪じゃないから教えてあげるぅ。私の名前は秋風(あきかぜ)(すず)。アンタが昔虐めてた女の名前」 俺は言葉が出て来なかった。昔、やんちゃだったことは記憶にあるが、ほんの出来心で、からかった女子は沢山いた。それでもなんとなく背筋が寒くなった。 「うーわ。最っ低!『あ!おもしれー!音読みしたらフウリンじゃん!もうフウ・リンでいいんじゃん?チンチンリリーン♪』どうよ。そっくりじゃない?これで思い出さなかったらマジでクズ野郎だわ…」 声真似を聞いてハッとした。後から思えば気を引きたかったがための行為だった気がするが、確かに彼女は辛そうな顔をしていた。 「フウ・リンちゃん……?まさか……そんな」 すずは、したり顔になった。 「あれから私はチンチンちゃんとか変なあだ名までついて辛かった……しばらくして病気が見つかって、入院することになって……そんなに長くは生きられなかったけど、多くの冷たい視線からは逃れることができた。でも…今度は逆に庇ってくれてた真美が虐められるようになって…耐えられなくなった彼女は自殺した。だから私はアンタをゆるさない。さっ!いただくわ」 薄暗くてはっきりとは分からなかったが、顔は青白く吐く息すら冷たく感じられた。 恐怖で動けずにいると暗闇で何かがキラリと光った。心臓を刺される。殺される!やめろ!やめてくれ!俺は… 「ま!待ってくれ!悪かった!話を……ぎゃあああああああ!!」 目を剥いて動かなくなった俺の上で、彼女は舌なめずりをしながら、ベッド脇の花瓶に入った黄色い花を一輪持ち上げ頬擦りをした。 「はぁあ……ご馳走様。やっぱり直接吸い取るのが一番!刃物で刺すと鮮度が落ちちゃうもん!知ってる?これの花言葉ってねえ?恨みと敵意なんだよ?ってもう聞こえてないか……キャハハハハハハッ!アンタに私が視えてるんだって分かったときは、さすがに運命感じちゃった♪」 はるか遠くの方で、小さくリリリン…と何かが鳴った。 湿ったアスファルトに投げ出された裸体の近くにジャケットも転がっている。ふいにポケットの中のスマートフォンが振動しメッセージを受信した。立花からだ。 『すみません先輩!この前合コンで着たスーツが…さっきクリーニングから返ってきて、今メモ見ました!彼女と二人分って書いてありましたけど…彼女って誰のことですか?あの日、途中で離脱したの先輩だけですよ?』
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