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星のまたたき2
「俺ほんとはさ、今夜このままお前のこと連れ去ろうと思ってたんだ」
驚いた私はそのまま動けずに次の言葉を慌てて探す。
「あ、ごめんな、こんなこと言って。お前の顔見たら忘れられなかった思いが溢れちゃってさ。でも強引にどうこうしたって心が汚れるだけだから、しないと決めたんだ。でも、2人で話しはしたかった」
こんなにまっすぐ自分の思いを伝えられる人じゃなかったのに、こんなに男を感じさせる大人になってるなんて。成長してないのは私なのかもしれない。ちゃんと私も伝えなきゃ。
「健ちゃん。正直に言うと、私は今日誘われたときドキドキしてた。お刺し身取りに行くのも嬉しかった。勝手だけどそんな気持ちでいたよ」
「うん、俺もドキドキしてた」
「魚吉の女将を一瞬想像しちゃったし、別れてなかったらどうしてたかなとか考えたし」
「そうだな、どうなってたかな。別れるのが伸びただけかもしれねーぞって思うぐらい成長してなかったからなー」
稚拙な言葉の応酬であっても、ずっと思ってたことや今日思ったことも含めて素直に話せたと思う。
2人が一番近づけた時なんじゃないかな。分かったことは、別れてから2人ともに、もやもやと心を残していたってこと。
「なんかスッキリって感じがするな」
「うん、なんか友達になれたって気がする」
気がつくと、日付が変わろうとしていた。
「俺、明日の朝も早いし、お前は子供いるんだろ。そろそろ帰るか」
「待って」
立ち上がろうとする健ちゃんに私から一つ提案をした。
「帰る前にさ、思い出の上書き。握手で終わる大人のやり方は誕生日前だからまだ若いってことでさ……、
1回だけ、キスしたい」
健ちゃんが一瞬息を大きく吸い込んだ。そして、
「その提案いいな、まだ若いってことで……、
1回だけ、な」
自分でもなんであんなこと言い出したのかなって思う。
私が公園から先に出るのを見送り、その後に健ちゃんは出ていった。
7月に入ってすぐの、夏の夜のことだった。
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