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星のまたたき
いま私は、町内の中央公園に来ている。
娘とのお風呂を済ませ、寝かしつけてから母に託し家をでた。実家からは5分ともかからない距離にある。
やや小高いところにある中央公園。安全な遊具がひとつふたつと少なめに設置してあるのは、現代の公園といったところか。
「よっ、悪かったな。来ないかと思ってた」
先に来ていた健ちゃんが私に声をかける。それまで目印のように点けていた車のライトを消すと、夏の夜本来の色に染まりだす。月明かりと、何本かの街灯だけが私達を照らしている。
「あそこのベンチ? だったよね」
私が指をさしたのは、絶対ここのベンチと決めて座っていた場所。空いていなかったら座らず過ごし、空いていたら帰るまで譲らないというルールを作り楽しんでいた。
初めてのキスも、思い出のベンチが見届けてくれた。
夜も10時をすぎると、やたら湿った夏の空気に侵食されてくる。湿ったベンチにたどり着き、持参したタオルを広げそこに2人で座る。私はあの頃を懐かしむ。
「付き合いだして最初の頃ってさ、帰りたくないからずっとココいたよね」
気温が低いわけでもないのに、湿度に浸され体が冷えていったことを思い出す。
「明け方近くに慌てて帰った時もあったな」
「そうそう、あのときは新聞屋さんに『こんばんは』って言ったら『おはようございます』って返されたの。あーそうかって納得しちゃったよ」
しばらく蘇る懐かしさを出し合いながら時間を楽しんだ。なんで誘ったの? は聞かない方がいいと思った。私から始める気持ちがないのなら聞いちゃいけない。健ちゃんからは何を言うつもりか分からない。ただ、曖昧なまま懐かしさを分け合うために会った、だけでもいいと思った。
やや沈黙したあと、空を見上げる健ちゃんが私に言ってきた。
「あの星見てみ」人差し指を伸ばしなが「あれが蟹座だよ。なんかクワっと光ってるだろ。あれが中心部」
「うっそ、すごい。星なんか全然分かんないねーってずっと話してたじゃん。勉強したの?」
よく空を見ては、分かんないねーって言っては勝手に星座を作ったりして遊んでた。
「もうすぐ誕生日だしな。蟹座のプレゼント」
「覚えてたんだ、嬉しいよ。ありがと」
星がまたたくように、私の心が光り出す。恋が再燃しそうでドキドキする。
私も覚えてるよ。健ちゃんは、10月生まれの天秤座だから、私のほうが少しお姉さんってよく話したよね。
それから健ちゃんは続けて、あれが獅子座であれが蛇座でと指さす位置を変えつつ説明してくれた。星座になんかとんと興味なかったのに、知らない時間に増えたものは数しれない。
あれから私の知らないことが、知らない間にたくさん増えたんだ。
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