おにーちゃん、弟に会いたくなる

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おにーちゃん、弟に会いたくなる

 桜雫を部屋から追い出した後、謙吾からの贈り物とふかふかのベットに夢見もよく、爽やかな目覚め。  ホテルの朝食に出てきそうな食事も平らげ、上機嫌で登校したところである事に気づいてしまい、絶望と共に頭を抱えてしまう。 「広い部屋に豪華な風呂と食事……ふかふかベッドで熟睡したのに何が絶望だよ」 「絶望だろ! 熟睡しすぎて兄弟の会話ができなかったんだぞ!」  死活問題だ! 机を叩き、そう叫んぶ俺に、怜は肩をすくめ、哀れみの目を桜雫に向ける。 「あーちゃんさぁ……コレのどこが好きなのか俺にはわかんないんだけど……」 「指をさすんじゃない! 後、コレって言うなお口が悪いぞ怜ちゃん♡」 「あぁ? コレで十分だろ?」 「俺はhoneyじゃないならいいよ」 「お前は黙ってろ」  いつもの掛け合いに割って入ってきた桜雫を一喝し、どうしても弟に会いたくなった俺は、どうやってこの二人から気づかれずに弟と会う方法を考える。  今日は木曜日だろ? 今から行けば体育の時間に間に合うよな……トイレに行くふりをして消えるか突然の体調不良で……  真剣に考え出してしまった、俺の額に誰かの手が乗り、覗き込んできた桜雫の不安そうな顔に息を呑む。 「Honey? what's wrong? Are you all right? 体調悪い?」 「……」  よし! いいフリだ桜雫! 完璧な演技で抜け出し、いざゆかん愛しの弟の所へ! 「かもな……身体がダルくて頭も痛い」 「うわー……バレバレな嘘つくなよピュアなあーちゃんでも本気に……」 「それは大変」 「え?! 信じるの?!」  じゃぁ……と言葉を繋いだ俺だが、その場を離れようとした身体は宙を浮き、エレベーターの時と同じ、お姫様抱っこをされている事に目眩がする。 「桜雫ァ! 俺は元気だ! めっちゃ元気だから! 降ろせ!」 「お断り、昨日、honeyは倒れたんだからね? れーくん、保健室に案内してくれる?」  大笑いしながら頷いた怜がドアを開け、邪魔だよーちょっと通してねと軽い口調で、ローカを塞いでいた生徒に愛想を振りまく怜の後に続く。  お姫様抱っこをされた俺を見た生徒は、まるで衝撃映像を見たかのように目を見開き、その場で固まっている。  そりゃー固まるだろうな? 桜雫に負けないぐらい背は高いし、体格もそれなりにある奴がお姫様抱っこされてんだからよー……あー消えてしまいたい…… 「honey?」 「降ろせ……今すぐにだ」 「体調は?」 「いいから降ろせ」  静かに言った俺に、盛大なため息を吐かれ、ゆっくりと降ろされて足が地につくと同時に、愉快に笑う怜の後頭部を思いっきり叩く。 「弟の所に行きたかった? 不審者で通報されるよ」 「は、はぁー笑える……俺は謙吾の兄なんだから通報なんてされるわけねーだろ」 「俺が学校に通報すれば別だよね?」  口角を上げてドヤ顔で見てきた桜雫に舌打ちで返し、その場から離れようとした俺の後を、当たり前のようについてくるものだから流石にキレる。 「ウザっ! 何なんだよ!」 「どこ行くの?」 「カワイイ女子とデート♡」 「無理だとともうよ」  それが、無理じゃないんだよなー……脈がなく振られた時用に相性がいい一人を残していたんだよ……ま、こんなに早く使う日が来るとは思わなかったけどな。  スラックスに入れていたスマホを取り出し、遊び友達のアイコンをタップしてメールを送ると、秒で返事が送られてきたのだが、その文章に、思考回路が固まる。 「What's wrong?」 「ちょーっとしつれーしまーす」  スマホを持っていた手に力が入らず、落としそうになった所を怜が拾い上げ、彼女からの返信を読み上げていく。 「遊びに行く? 浮気なんて駄目だよ〜あさひちゃんが悲しむでしょ? もう連絡してこないでね? 末永くお幸せに♡……って、やーばバレてんじゃん」 「桜雫ァァァァァ!」 「俺じゃないよー」 「じゃぁ誰だってい……」  桜雫の爽やかな笑顔から嫌な予感がし、徐々に犯人の笑顔が脳裏に浮かぶ。  ヤラれた……桜雫じゃないなら一人しかいないじゃないか……  クソ! やりやがったな!   あのクソババアァァァァ!
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