おにーちゃん、弟が恋しくなる

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おにーちゃん、弟が恋しくなる

 桜雫の策略に落とされたと思いたくない俺は、なんとか距離を取りながらもぐるぐると酷い音を立てる腹を撫でた所で、チャイムが鳴り響いた。  失礼しますと入ってきたのは、まるでホテルマンの様な制服を着た男二人に続き、シルバーの台車を押したメイド服姿のお姉さんが揃った所で頭を下げる。 「桜雫! なんだこれは!」 「何って食事だよ……料理も作れないからDadの経営しているホテルのシェフに頼んだんだよ」  桜雫に背中を押されながら、強制的に座らされた前には、皿の大きさより少ない量の食事、まぁ……あれだホテルのフルコースディナーってやつがメイドによってテーブルに並べられていく。  顔を上げ、制服を着た男と桜雫が何かを話し、視線が合った男に一礼をされると、支度を終えた従業員達を集め、「ごゆっくり」の言葉を残して家から出ていった。  帰ったらかわいいかわいい弟が笑顔で「おにーちゃん、お帰り」と出迎えるだけでなく、夜ご飯を食べながら今日あった出来事を話し、風呂の後は弟が大好きなゲームで遊ぶ事が、俺のルーティンだったのに、テーブルを囲んで食事を楽しむ相手は愛しい弟ではない。 「honey……頬にソースがついてるよ♡」  テーブルに置いてある布で唇を拭き取ろうとする桜雫を睨みつけ、自分の布で唇を拭く。  並べられた高級なフルコースディナーは、俺の腹を満たしてくれず、ワイングラスに注がれた水を一気に飲み干した。 「何怒ってるの?」 「こんな高くて腹を満たさない食事を毎日食わされるのか? 不安なだけだ」 「No way! 特別な日にしたいから頑張ったんだよ」 「引越代に食事、家まで……いくらパパの財力が凄くてもおじさんに内緒で使い込んでるんじゃないよな?」  これでも一応は定食屋の息子だ。  出てきた食材を見れば、どれぐらいのコストがかかってるかはわかるし、アメリカでは当たり前かは知らないが、渡したチップもチップにどうぞって額じゃない。  タワマンの家賃だって高校生に払えるわけ無いだろうからこれは、おじさんの財力だと想定できる。  俺の推理力凄くないか? 有名な探偵もスタンディングオベーションだろうな。 「Honey is really cute……俺の親はそんなに甘くはないってこの家は俺の持ち物だし、引っ越しも、この料理も全部俺のお金で俺が用意したんだよ」  凄いでしょ?と呆気にとられている俺に微笑んだ桜雫は、唇に乗せたワイングラスを傾ける。  その姿に同じ高校生とは思えない仕草が笑えなくて、空になったグラスを置き、口の周りをナプキンで拭く。   「だとしても、高校生二人で生活できると思うか? 俺はバイトもしてないんだぜ?」 「No problem 心配しなくていいよ、養える財力ぐはいあるから」  言葉が出てこない……なんとかして諦めてもらうために、考えだした手札を開けてみたが、文字通りの惨敗……  まぁ、考えようによれば……別に桜雫を嫌いではないんだから、俺もセレブの仲間入りを果たし、人の金で豪遊ができるこの状況を楽しむってのも悪くない話……  なんだけど……やっぱり弟が恋しい。 桜雫英会話 Honey is really cute……ハニーは本当にかわいいね
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