おにーちゃん、桜雫を連れ出す

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おにーちゃん、桜雫を連れ出す

 黒板に書かれた『桜雫愛咲陽』の文字に、ぽかんと口を開けた俺の指に挟んでいた千円札は、玲がゆっくりと抜き取っていく。  前から向かってくる彼に、俺は、いつ彼の口からhoneyと声をかけられるかドキドキしていたが、目を合わせた俺に向けたのは、軽く口角を上げただけの微笑みだった。  授業が始まるや否や、あさひちゃんと名前に似た桜雫愛咲陽は、まるで興味を失くしたかように背負っていたリュックを抱え、机に平伏せ、数分後には軽い寝息を立て始める。  俺はと言うと、隣の席にいる男が、可愛い愛しのあさひちゃんかを確認するため、頬杖をつき、みていたが、寝顔も、何かを抱いて寝る姿も、あさひちゃんに似ていいるのに……男……なんだよな…… ✱✱✱  桜雫を見ていた俺は、いつの間にか彼につられて夢の住人になっていたらしく、目が覚めた時には、教団に立っていた先生の姿はなく、クラスメイトが笑いながら話してる姿に、さっきまでの出来事が夢に感じ、そっと隣を横目で見ると、頬杖をしてこちらを見る桜雫愛咲陽と目が合う。  うん、夢じゃない……現実だ。  ニコニコと笑う桜雫に、本当にあのあさひちゃんなのかを確認しようとした所で、一人の生徒が、桜雫の前に座る。 「なぁ、帰国子女って女の事を帰国子女って言うんだっけ? だったら入る高校間違ってない?」  出た出た、転校生イジりをするバカ……桜雫は頬杖をついたまま、一瞬視線だけをそちらに向けたが、直ぐに俺に視線を合わせる。  桜雫が無視をしても、目の前に座っている生徒は話を続けた事に、俺の耳がそちらに集中した。 「それか……男装女子で女の子とか?」  生徒の言葉に、その友達がドラマの見過ぎとか笑いだし、今まで思っていた言葉を口にされ、俺が笑われてるようで、苛立ちが表に出てくる。  ゆっくりと立ち上がる俺に、玲が止めようと俺の名前を呼んで腕を捕む。 「啓吾、高校では大人しくだろ?」  荒れていた中学の俺は卒業したはずだったが、まるで俺や、桜雫を馬鹿にした言い方が許せなくて、俺は、生徒が座っている机を足でひっくり返す。  ざわつく教室の声は俺の耳には届かない。 「転校生イジりとか始めるなら帰国子女の言葉くらい勉強してからにしやがれ胸糞悪いんだよ」 「おいおい、どうした啓吾? 熱くなるなって」  冷たい視線で相手を見下している俺に、玲が肩を掴んで止めようとしたが、今まで黙っていた桜雫が動く。 「I see……君も帰国子女になりたいのか……だったら君も海外で学べばいい紹介してあげるよ」  マジかと喜ぶ生徒に、ニッコリと笑っていた桜雫の表情が一変し、氷のように鋭く冷たい目が、相手を怯えさせる。 「but……アメリカは銃社会だ……突然、銃を持ったやつが現れてクラスメイトが殺される経験をしたいなら……だけど?」  表情が笑顔へと戻った桜雫に、生徒達は青ざめた顔で立ち上がり、ゆっくりと桜雫から離れていく。  そんな生徒たちに手を振った桜雫は、俺を見て立ち上がり手を差し出す。 「助けてくれてありがと……君に聞きたいことがるんだけどいいかな?」 「な、なんだよ……」 「このクラスに高津啓吾って人がいるはずなんだけど知らない?」  俺を見た玲が楽しそうに笑い、俺はその口を手で覆った後、ここで俺だと知られたら、大変なことになりそうな予感しかなく、なんとかこの場を乗り切ろうと桜雫の手を引き、教室から連れ出した。  
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