おにーちゃん、愛咲陽にキスされる

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おにーちゃん、愛咲陽にキスされる

 高津啓吾は? と聞いてきた桜雫の手を引き、連れてきたのは誰も居ない屋上。  錆びついたドアが酷い音を立て、締まると同時に引いていた手は、強い力で引き寄せられ、バランスを崩した俺の身体を桜雫が抱きとめた。 「やっと……会えたね? honey?」  身長差が変わらない桜雫の声が耳に直接入ってくるし、官能的な甘い香りが鼻を掠め、honeyと呼ばれたことで、愛しのあさひちゃん=男の愛咲陽ちゃんの式が出来上がる。  離れようと思ってもそうはいかなくて、やっと会えた嬉しいとかテンションを高く言われると、無下にはできなくて、背中を撫で落ち着かせている俺が可笑しくて、ため息をつく。 「気が済んだら離してくれよ」 「I hate it……十三年だよ? ずっと会いたかった」  十三年、男の俺にそこまで思ってくれるなんて、恥ずかしいような、有り難いような……それでも、俺を抱きしめ続ける桜雫に、俺も会いたかったとは言えなかった……  俺は、ずっと桜雫を女だと思ってたのだから…… 「そんなに喜ぶなよ……俺は……女だと思っていたんだ……怒るべきだろ?」 「知ってたよ?」 「知ってた? 知ってて話に乗ったのか?」  思わぬ返答に桜雫の身体を押し退け、距離を取る俺に桜雫の口元が弧を描く。 「だってhoneyのapproachが凄くて言い出せなかったし……でも、俺はhoneyが男でも傍に居たいから、honeyの告白に返事をした」 「桜雫……」 「Asahi-chan won't tell me……」  押し退けたはずの桜雫が、間合いを詰め、桜雫の手が俺の腰に添え、強く引き寄せられたのか、そう変わらない背丈のせいで見つめ合う形になる。  日本人離れした整いすぎてる顔つきにネイティブな英語、突然、ドクドクと高鳴る鼓動が、発した声を震わせてしまう。 「へ? な、なに?」 「もし……honeyが女の桜雫愛咲陽をお望みなら性転換手術で女になるけど?」 「な……何も、そ……そこまで」 「Well then……男でも……are you OK?」  このルックスに甘い低音で囁く声……なんか……これは……男の俺でも落とされそうな雰囲気が、頭の中で危険信号を出していても、身体は簡単に動いてはくれない。  頬を伝う指が、顎を軽く上げ……そして……honeyと呼んだ唇は、俺の……唇と……くち、唇と重なった。  俺は……今……誰と……キスをしてるんだろ……あさひちゃん? それとも………いや、桜雫愛咲陽だ!  なんとか正気を取り戻した俺は、桜雫の腹に一発拳を入れると、溝に入ったのか、桜雫の腕から逃れた俺は、制服の袖口で唇を拭う。 「ひどいなー……十三年降りに再会した恋人にその仕打ち?」 「黙れ! 俺が恋人になったのは女のあさひちゃんだ! 桜雫愛咲陽じゃない!」 「どっちも俺だけど? honeyが愛してると言ったことも、ずっと側にいたいってことも全部……俺、何だけどな?」  身なりを整えた桜雫が、俺との間を詰め、間近にみたドヤ顔と真実を並べられ、イラッときた俺が眉寄せる。 「honeyの気はすぐに変わりそうだし」 「変わらない」 「変わる」 「変わらない」  変わる変わらないの攻防戦は、次の授業が始まるまで続き、このイライラは愛しの弟に癒やされようと決意を固め、学校帰りに謙吾が通う小学校に立ち寄ることにした。     ✱✱✱ 愛咲陽の英会話 I hate it……嫌だ Asahi-chan won't tell me……あさひちゃんと呼んでくれないんだ Well then……じゃぁ are you OK?……大丈夫?
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