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おにーちゃん、セレブに頭を抱える
気持ちのいいぐらい爽やかな晴天と、春風に乗せて舞い散る桜、寒くもなければ暑くもない気温に気分は最高!
後ろについてくる桜雫がいなければ! の話だけど……それだけではなく……
「帰った? 親ですか?」
「いえ? 椿くんと桃園くんよお客さんが来るので椿くんの家でいるって」
長年、俺や椿達の担任は彼女だったこともあり、解せないが、兄の俺よりも何故か、椿達の方が信用度は高い。
客が来るって母さんから聞いてないけど、先を越されたな……考えていても何か思いつくわけでもないし、ここには用がないのだから、家に帰ろうと振り向いた所で、いつの間にか止まっていたタクシーに目を見開く。
俺が呼んだわけでもないなら……
隣に視線を向けると、にこにこと笑う桜雫の姿に肩を落とし、頭を抱えている所で、背中に添えていた桜雫の手が俺を押す。
「honeyが先生と話してる間に呼んでおいた俺ってできる男だと思えない? Did you fall for him?」
「思わない! 徒歩ニ十分だぞ?」
「ここまで三十分、計五十分だぜ? 結構な距離だと思うけど?」
優しい笑顔で誘う桜雫と、すぐに家に帰りたい欲求に負け、桜雫に背中を押されるまま、悪魔の囁きに惨敗をした俺は、乗り込んだタクシーの運転手に行き先を告げたあと、……ここ日本では信じられない光景を目撃してしまう。
そう、それは、桜雫が財布から出したのは、五千円札、それを運賃だと皿の上に置いたのだ。
「お、おまえ! 何してんだよ!」
「え? チップも含めた料金だけど……足りない?」
溜息を溢しながら、スラックスの後ろポケットに入れていた財布を出し、更にそこからお札を追加しようとする手を叩く。
「このセレブが! ここは日本なんだよ! 運転手さん、必ずお釣りください!」
「返さなくていいから美味しいものでも食べて」
「うるせぇ! 黙ってろ! 運転手さん、お願いします」
俺と愛咲陽のやり取りが面白かったのか、はいよの声が震えていて、その恥ずかしさに腕を組み、窓の外へ視線をやった。
数分ほど走ったタクシーは、玄関前で止まり、先に降りた愛咲陽が、待ち構えていた母さんに抱きつかれ、再開を喜び合ってる。
そんな二人を引き離し、運転手から貰ったお釣りと使った分を足して、愛咲陽の胸に突き返す。
「コレで貸し借りなしだ! 母さん、先生が客人が来るからって学校が終わった謙吾を椿が奪っていったんだけど? 客人が帰ったなら謙吾を迎えに行く」
「え? あれ? あっくん言ってないの?」
「I want to surprise honey」
サプライズ? 愛咲陽の言葉に、あ〜と手を打った母さんは、俺を無視して二人で盛り上がり始めたため、どっと疲れた俺は、早くベットに寝転びたくなり、二人をすり抜けて家に入ると、自室へと向かう。
階段を上がり、右側の一室が俺の部屋なのだが、その扉を開け、異様な雰囲気にまた、扉を閉める。
何かがオカシイ……朝起きた時は確かにあったはずだ……俺はこの部屋で寝て、起きて身支度もした。
一度、大きく深呼吸をしてから、もう一度部屋のドアを開け、中に入ると体全身が凍りつく。
壁につけてあったベットも、机も、クローゼットも、デッキも、全てが消え、俺の部屋だったはずの一室は、なにもない、ただのフローリングの洋室になっていた。
「な……な……なんじゃこりゃー!!!!!」
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