おにーちゃん、屈辱を味わう

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おにーちゃん、屈辱を味わう

 家を出ると、ここまで乗せてきてくれたタクシーがまだ止まっており、そのタクシーで桜雫が買ったというマンションへと来たのだが、その家は、俺の想像を超えていて……目眩がした。  デカイ…………  見上げていったら首が痛くなるどころか、後ろにひっくり返りそうなぐらいにデカイ……何階あるのか数えることすら面倒くなるほどだ。  中に入るよう桜雫に背中を押され、エントランスホールでエレベーターを待ってる間も、異世界に来たようでキョロキョロと視線が忙しくなる俺とは反対に桜雫は、スマホを片手にエレベーターの手すりに腰を掛ける。  エレベーターのボタンは二十階を指し、その数字以上がないってことは、最上階……マジか…… 「honey、さっきからずっと黙ってるけどまだ怒ってるの?」 「うるさい」 「cold response……メールでは愛咲陽ちゃんって呼んで話してただろう?」 「今それどころじゃねーんだよ」  そう、それどころじゃないんだ……二十階だと?  タワマンじゃねぇか! ここからバンジージャンプでもさせる気が? 窓の外とか見てみろ? 見れるか! あーくそ! まだ着かないのかよ!  エレベーターの中で階数ランプの数字が上がっていく、階数が増えるに連れ、じわりと額に変な汗が浮かび上がり、なんとかこの状況に耐えようと握りしめた手汗も酷くなる。  なんてことはない! もうすぐ最上階だ……最……上……か……い……?  突然、キーンと耳音が鳴る。  俺を呼ぶ桜雫の声が遠くに聞こえ、崩れそうになる体を間一髪の所で抱きとめたのは、俺から少し離れたところにいた桜雫だった。 「honey?」  桜雫の顔が心配そうに俺をみている。  心配するなと声をかけたいのに、耳鳴りが邪魔をして声が出ない……意識すら失いかけた時、身体がふわりと浮かび上がり、目的の階に辿り着いたのか、エレベーターのドアが開き、浮いた身体がエレベーターから離れた。  暫く鳴っていた耳鳴りもようやく落ち着きを取り戻し、置かれていた状況が少しずつ明らかになる。  夢見心地で自分の身体が浮いてると思っていたのに、本当は桜雫にお姫様抱っこされていたとは、思わないだろう……なんなら、この現実が夢であってほしいぐらいだ。 「honey……食事取れてる? 女みたいに軽いよ?」 「標準体重だ! いいから降ろせ!」 「俺の腕がhoneyを離したくないらしいからこのまま家までご案な〜い」 「ふざけんなァァァァァ!!」  俺の叫びを桜雫の耳に届くことはなく、俺が落ちないようにしっかり抱きしめ直したと思ったら、そのまま、聴いたことのある洋楽を口ずさみ、家まで歩きだしたのだった。
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